Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

ヤン・ソギル 『闇の子供たち』

 タイを舞台に幼児売春や臓器売買の実態を描くフィクション。本作を原作とする映画が2008年9月のバンコク国際映画祭での上映を中止されるなど、その衝撃的な内容が話題となった作品。

 全編を通じて登場するタイ山岳地帯に住む少数民族の姉妹が、本作の主題を象徴している。8歳で親に売春宿に売られた姉のヤイルーンは、2年後にHIVに感染・発症、ゴミ処理場に打ち棄てられ、何とか自力で村に戻るも、非業の死を遂げる。姉が村に戻ってくる直前、妹のセンラーも同様に売春宿に売り渡され、客を取らされ続けた挙句、生きたまま日本人への臓器ドナーとして病院に引き渡される。
  
 フィクションであるとは言え、作者が描く幼児売春や性的虐待のシーンは生々しい。舞台となる売春宿で、米国人女性客が店の少年にホルモン剤を注射して性欲を貪り、少年を死に至らしめるシーンは夢に出てきそうなほどグロテスク。

 物語の中で読者の視点に立つのは、児童売春問題に立ち向かう現地の人権NGOで働く日本人職員の音羽恵子。日本の大手紙記者の助けを借りてヤイルーンとセンラーの問題を明らかにしようとするが、衝撃的なラストが待ち受ける。帰国を促す記者に対して「わたしの居場所はここです」と言い切る音羽の姿勢に、冷徹な現実の中で、作者は一縷の希望を見出しているように思う。

 解説者の永井氏が巻末で述べているとおり、児童売春も、人身売買も、根底にある背景は貧困。東南アジア経済は数十年前にくらべて豊かになったとはいえ、貧富の格差はそれ以上のスピードで拡がりつつある。生まれながらに絶望に追い込まれる子どもたちが居る限り、貧困は根絶すべき絶対悪、ということを再認識させてくれる本。日本は、アジアで、世界で、何ができるか。

                              (幻冬舎文庫、2004年発行)


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