森村 泰昌 『超・美術鑑賞術/お金をめぐる芸術の話』
セルフ・ポートレイトで知られる美術家・森村氏の近著。もともとNHK『人間講座』のテキストとして書かれた『超・美術鑑賞術』と、2008年2月に森美術館で行った講演会の内容をまとめた『お金をめぐる芸術の話』の二編から成る。
特に面白かったのは前者の『超・美術鑑賞術』。「確からしさ、正しさよりもおもしろさを大事にした美術鑑賞を」と説く森村氏。ピカソやレンブラント、マネといった巨匠の名画群を、「プリクラ」や「グルメ」「IT」といった現代のキーワードを切り口に解説していく。
そこから見出される森村氏の「美術鑑賞の極意」は、「おもしろければ、間違っていてもよい」、「アートはイートである(食べる行為と同じように美術を感じ味わえば、美術がもっと近しく思われてくる)」、「美術の歴史とは、数珠つなぎになった贈り物のことである」、「美術鑑賞とは、ものごとのつながりかたを考えることである」、など。
なかでも「餅の絵を描けないようでは、美味しい餅も作れない」というフレーズには、思わずハッとさせられた。「餅を得にすることができる能力、つまり空想する力が、人間の身体における水分のように人間の心には不可欠」、と森村氏。現実の世界に何らかの働きかけを行おうとするとき、他人の心理や社会への影響について想像(空想)する力なくして、良い結果は生まれない。芸術とは、その空想と現実とを結ぼうとする努力の行為に他ならないのではないか。過去の芸術家たちは、その行為を己の腕ひとつで後世へと伝え紡いだ伝道師、ともいえないだろうか。この本を読んで、そんなことを考えさせられた。