Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

上野 泰也 『デフレは終わらない 騙されないための裏読み経済学』

 会計検査院から富士銀行に転身、エコノミストとして現在もみずほ証券の現役市場アナリスト、上野さんによって書かれた一般向けの金融本。論旨は明快で、さくっと読めます。

 タイトルどおり、第一の論旨は、第一章の「デフレは終わらない」。国内需要の落ち込みと相次ぐ規制緩和、それに新興国経済成長のひと段落を理由として、海外要因である食糧・原油価格の上昇を打ち消すには至らない、というのがその理由です。自分もおおむね賛成のところです。
 もちろん海外の新興国や途上国には通用しない理屈。すでにアジアや中東、中米、アフリカの国々では食糧高騰にあえいで暴動や飢餓の恐れが出ています。自分も職業柄、「何とかしたい」と思わずにいられない、やきもきとさせられる状況が続いています。
 
 続いて第二章は「長期金利は上がらない」。景気が落ち込んできた昨今の状況を考えれば、日銀がこれ以上利上げに踏み込んだところで、逆に不景気を促すことになりかねない。確かに「逆イールド」の発生を恐れて、日銀もこれ以上の利上げには踏み切れない、というところでしょう。
 ちなみに上野さんは「利上げが自己目的化しているのではないかという批判を展開してきた」日銀ウォッチャーの一人です。
 さらに、ユーロ利下げ予測。ただしつい先日ECBは食糧・原油価格上昇に耐え切れず利上げを発表したところで、この点については上野さんの予測が少々外れたことになります。それほどまでに、今年に入ってからの原油・食糧市場の投機による高騰は、未曾有のものである、ということでしょう。

 最後に、上野さんは日本人のメディア・リテラシーと金融リテラシーについても警鐘を鳴らします。金融・経済は専門的で動きも激しく、2・3年で移動する報道記者の質によっては、日銀や政府発表の「裏」や世界経済の最新動向を読みきれない「浅い報道」に出くわすこともあります。
 個人的にも、一部のアナリストやコメンテータ、マスコミの社説に躍らされず、個人としての経済観・金融観を磨いていくことがいかに大事か、最近しみじみ思います。経済指標の読み方とか、統計の信憑性とか、経済史やら。そのために勉強する時間を確保することはなかなか難しいですが・・・

 1600円。得られるさまざまな示唆からすれば、価値ある買い物だったと思います。個人投資家はもちろん、一般の社会人の方々にもおススメの一冊です。

                               (東洋経済新報社、2008年6月発行)


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