Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

井上 靖 『蒼き狼』

  
井上靖の小説を最近読み始めました。
 今回読んだ『蒼き狼』。冗長な情景や心理描写はなく、主人公であるチンギス・ハーンの行動と思考の変遷を淡々と並べる構成。小気味よいテンポで、13世紀のモンゴル高原が生んだ世紀の英雄/征服者の生涯を描きます。
 
 まず面白いのは、やはり題材となっているチンギス・ハーンという人物そのもの。
 井上さんは、「あとがき」で、チンギス・ハーンを小説の題材に選んだ理由として、世界史上最大の版図を誇ったモンゴル帝国が彼一人の存在抜きには成立しなかったという歴史的事実、そしてその常人には不可能と思われる版図拡大を成し遂げた彼の内面・原動力に対する好奇心を挙げています。
 井上さんは、モンゴル族に古くより伝わる狼の伝説と、彼の出生の秘密に、その原動力の源泉を見出します。井上さんの描くチンギス・ハーンは、モンゴル民族の血と誇りにすべてを捧げ四囲のすべての民族に忠誠を強いながらも、母ホエルンや長子ジュチとの関係に悩む等身大の一男性でもあります。
 他方で、彼の軍の侵略の数々-タタールやナイマン、ホラズム、金-は、今もユーラシア各地で語り草になっているほど残虐なものでした。個人的には、この時代のこの地域に生まれなくて良かったなあ、と素直に思わされてしまいました。
  
 それにしても、チンギス・ハーンとその一族がこの時代に蹂躙した版図は、恐るべき広さ。思わず高校の世界史の教科書を引っ張り出して地図とにらめっこしてしまいました。

 歴史好きな人、英雄好きな人、自分のように急にモンゴル草原を駆けたくなった人、おすすめです。

                               (新潮文庫、1964年発行)
 

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