Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

臼井 宥文 『ニュー・リッチの世界』

 
 日本の富裕層に特化したマーケティング会社経営で知られる臼井氏の1年半前の著作。日本で台頭してきたニュー・リッチ、新・富裕層の生活と消費性向の実態を、氏の実体験をもとに描く。

 本書の中で描かれる富裕層の消費性向の具体例-セキュリティつきの麻布の億ション、大型クルーザーやプライベートジェット、世界トップレベルのハイスクールやアイビーリーグをはじめとする世界一流大学への進学を軸とする子弟教育、モナコやドバイの豪華ホテル滞在・カジノ豪遊、フェラーリの販売台数増、アンチエイジングへの傾斜・・・・日本の富裕層の消費の具体例を見ていくと、正直、若干の羨望を覚える一方で、「何かおかしいのではないか」との思いを隠せない。

 ただ、他方で著者が言いたいのは、「卓越した教育・共用を身に付けた一握りの富裕層の洗練された趣味が、この社会に新たな文化や価値観を作り出してきた」「そして、雇用を創出し、近代の大衆社会を作り上げてきた」ということ。
 確かに、中世のメディチ家や、近代のフォード財団の例を見るまでもなく、多大な富を蓄積してきた資本家が、後世に語り継がれるような文化的・社会的功績を残すことはままある。日本でも、たとえば、優れた中世文学は、決して庶民からではなく、生活苦を体験することのなかった平安貴族の手によってつむぎ出されてきた。要するに、新しい文化は「暇なお金持ち」をパトロンとして、生まれるのである。
 ただし、後者の「雇用創出」には疑問符が付くと思う。たとえば、世界の富が集中するアメリカにおいて、短期的なレイオフやコストカットはいわばお家芸

 ともかくも、このような本が出版されて始めたこと自体、日本のなかで本当に「富裕層」が眼に見える範囲で台頭し始めた、ということの証左だろう。そして彼らは、おそらくフリーターやニートに象徴される低所得者層とは、確実に違う消費性向をもち、違うライフスタイル、違う考え方を持っている。
 フリーターやニートについて書かれた本はあふれている。他方、富裕層について書かれた本は少ないと言ってよい。タイトル買いの一冊。

                     (2006年11月発行、光文社ペーパーバックス)