Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

本山 美彦 『金融権力 グローバル経済とリスク・ビジネス』

 行き過ぎた資本自由主義・投機金融に対する批判で知られる京大名誉教授・本山氏の新著。岩波新書の新赤版。 
 
 サブプライムローン問題とは何なのか、現代の金融市場は誰によって動かされているのか、金融の本来の意義は何なのか。今、市場の何がおかしくて、これからどうしなければならないのか。こういった問いかけに正面から答えてくれる本。本書のなかで、ウォール街IMFに代表される「金融複合体」やワシントン・コンセンサス、資本の自由な国際的移動そのものに、批判の矛先が向かう。

 この本を読んで、正しいと思えた点が3つある。

 1つは、経済学を、数理科学よりも歴史学のコンテクストで捉えなおしていること。本山さんは、経済学が、社会科学のひとつとしてあくまで人間の行動を扱う学問であるにも関わらず、あたかも物理学のようにひとつの最適解を探し出すことや理論上のモデル構築のみに傾注してきたことを批判的に指摘している。経済学をはじめとする社会科学は、すべて人類の「より良い明日」のために進化するべきであるはず。数式や理論では描ききれない多数の不確定要素を取り扱う学問領域であるにも関わらず、(自分をはじめ)経済学に携わる多くの人間は、中世以来の貨幣・経済に関する数々の教訓の歴史を経験として学ぶことを忘れてしまったように思う。

 2つ目は、金融の本来の機能が「庶民の小口余剰資金を、企業の活動資金として融通する」ことである、と言明していること。
 20世紀後半、金融技術の進展(先物市場やデリバティブ)とともに、この金融が本来の機能から離れ、好景気のときも不景気のときも10%以上の利ざやを稼ぎ出す「金持ちが更に金持ちになるためのツール」となってしまったことを、著者は憂う。

 もう1つは、著者がマハトマ・ガンジーの言葉を引いて、「現在もっとも苦しんでいる層の願望を判断の基準に置く」ことを提唱していること。
 結局のところ、市場経済は所詮市場経済でしかない。一般的な日本人の暮らしは、貨幣や市場、金融機関ぬきにはもはや成り立たないが、それらは、そもそも私たちが幸せな生活を享受するための「ツール」でしかない。現代の世界において、世界的に過剰供給されたマネーの短期移動と、変動幅の大きい先物市場価格に翻弄され、所得の低い人々が穀物原油の価格上昇のあおりをくわなければならない理由は、どこにあるのだろうか。

 終章で、「金融権力」に対抗する試みとして、先人としてのプルードン、現代のグラミンバンク創設者・ムハマド・ユヌスNPO銀行、南米の「南の銀行」などを取り上げている。
 「金融権力に伍する手段」としてはもう少し記述が欲しいところですが、新書ということを考えれば、薄いページ数のなかに、著者の主張はコンパクトによく詰め込まれていると思います。

 サブプライムローン問題をはじめとする現代の世界の経済問題が「よく見えない」方々に、またその問題の背後に見え隠れする、不気味な権力の存在が気になる方に。もやもやを解消するためにぜひ読んでいただきたい本です。

                            (2008年4月発行、岩波書店