Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

野村 克也 『野村の「眼」 弱者の戦い』

 「ボヤキの達人」として再度注目を集めている野村克也楽天東北ゴールデンイーグルス監督の新著。50年間にわたる自身の現役、評論家、ヤクルト・阪神楽天、そしてシダックスの監督生活を通じた野球経験を振り返る自伝形式のエッセイ。

 野村監督の本は、ビジネス論としても敷衍できる名言・教訓が散りばめられていることで有名ですが、この本は先月発刊されたばかりということもあり、マー君こと田中選手をはじめとする楽天選手のエピソードなど、最新の野球ネタに触れている箇所も多く楽しめる内容になっています。

 野村監督は自分が小学生の頃から「野村監督」でしたが、改めて野村監督のすごさを思い知ったのは、昨シーズンオフにテレビ東京の『カンブリア宮殿』に出演、自身の現役時代の体験を語っていらしたとき。貧しさの中から南海にテスト入団し、練習に明け暮れたこと。1年目には解雇を通告され、「クビになったら、南海電鉄に飛び込んで自殺します」と残留を訴えたこと。一軍に定着した後、相手投手の投球を撮影して癖を見抜く研究を初めて実践したこと。批判も多く、独特の語り口から陰気なイメージすらもたれがちな野村監督ですが、とにかく野球に関しては一途で、まさに「信は万物の基を成す」を地でいかれた方ということが分かりました。
 その後、ヤクルト、阪神、そして楽天での知将としての活躍はここで語るまでもありません(ただし阪神時代の実績については、率直に自身の反省を含めて書かれています)

 個人的に興味深かったのは、第二章「四番とエースの条件」。監督の考えるエースの条件は、最近名実とともに日本一の先発投手となった日本ハムファイターズダルビッシュ投手の例を挙げ、「『打者を見下ろして投げている感覚』を備えている」、「いつも全力投球の『真面目な優等生』ではなく、『抜く』ことができる『不真面目な優等生』」であること。
 また南海時代に巨人から移籍した山内投手に、現在の自身の能力を把握させることで直球に頼るピッチングをあきらめさせ、打たせて取る投球で年間20勝を上げさせた例を挙げ、自身の仕事を「気付かせ屋」と呼んだ 第六章「適材適所と意識改革が組織を変える」も、一読に値すると思います。

 今シーズンも、楽天は5月2日現在で貯金生活の3位。4年前に他球団を解雇された選手で始まった楽天の躍進をヤフースポーツでチェックするのが楽しみな今日この頃。今年はぜひプレーオフ進出を!
 

                        (2008年3月発行、KKベストセラーズ