Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

赤峰 勝人 『ニンジンから宇宙へ』

 完全無農薬・化学肥料をまったく使わない有機農法を20年かけて実践・完成させ、「循環農法」の草分けとして知られる大分県の「百姓」赤峰さんの、日本の食と農についてのメッセージをまとめた本。
 先日、吉祥寺にある農園のワークショップに参加したときにお名前を知り、思わず古本屋で購入しました。少々古い本ですが、見せ掛けの健康・「ロハス」ブームがはびこる昨今、あるべき「食べ物」の姿はどうなのか、メッセージの正確さは今も変わっていないと思います。

・完全無農薬・化学肥料の無使用による農業は可能。
・戦後日本が推進してきた化学肥料と農薬漬けの農法は、野草や昆虫・微生物が作り出す有機物を土壌の中から死滅させ、貧弱な栄養分しか持たない作物を生み出し、そして土壌は痩せ続けた。結果、さらに化学肥料と農薬に頼らざるを得ないという悪循環にある。
・除菌剤を撒いてもなお出現する「害虫」は、じつは人間が意図しない使命を持っている。作物に付いた毒素を食べて消化し、死骸となって、無害な有機物として土壌を肥やすのである。

・戦後の日本に蔓延したアトピー性皮膚炎や成人病は、以前は見られなかったもの。農薬や化学肥料の蓄積は、国内のみならず欧米の大資本下の農業など国外にも見られており、現代人の体内に蓄積されているダメージは大きい。医療費の増大の原因はここにある。対症療法では根本的な問題解決にはならない。
・伝統日本の食生活-有機農法による玄米・雑穀、海水からつくるミネラルたっぷりの自然塩、同じく有機農法による旬の野菜、そして旬の魚-をとれば、大方の成人病やアレルギーからは解放される。赤峰さんの指導により重度のアトピー性皮膚炎から回復した人も実際大勢居る。

・農村の状況も深刻。そもそも自給自足で成り立っていたにも関わらず、政府や学者の言葉に踊らされ、化学肥料と農薬を購入し、有機物たっぷりの土壌を失い、結果より高価な農薬や肥料を購入せざるを得ず、現金を得るために若い男は出稼ぎに出ざるを得ないという悪循環。土が硬くなるために耕作機械の購入も必要になる。

 赤峰さんの印象的なフレーズは、以下のくだり。消費者に向けての強烈なメッセージ。
「人間の命を守る食べ物が、どこでどうやって育ち、自分たちの口に入り、命をつないでくれるかを、まったく知らなくなってしまっているし、知る手がかりさえなくなってしまっています」

 スーパーの店頭に有機農法による穀物や野菜が少量ながら並ぶようになったり、「地産地消」「スローフード」といった言葉に象徴されるように消費者の意識も若干変わりつつある。しかし、赤峰さんが投げかける問題意識「食べ物についての関心」は、根本のところでは変わっていないのではないだろうか。

 とりあえず自分は、残業を可能な限り減らして、有機農法で作られた玄米、旬の野菜・自然塩を中心とした「家食」を作るようにし始めました。何より、自分の健康を守るために、ですが 笑。

    (スパイク、1996年)

【補論:グローバリゼーションと農業】

 グローバリゼーションと資本主義経済の進展は、世界中のあらゆるものをドルやユーロで交換できる仕組みを人類にもたらしたが、既存のシステムのうち、その仕組みにやすやすと組み込んではいけなかったものが幾つかあると思う。そのうちもっともクリティカルなもののひとつが、「農作物」。
 農作物が他の消費財と同じように世界中で貨幣と交換できるようになった昨今、生産者は、安いコスト・見栄えのよさ・一時的な収穫量を基準として生産を行い、土壌を痩せさせ、ときには農薬使用によって自らの健康をも危機に陥れてしまいかねない。その結果として、消費者は、農薬と化学肥料漬けの作物を安い価格で享受し、その事実については無頓着でいる。
 そして、食糧価格でさえも、エネルギー生産への供給増・先物穀物市場へのマネー流入により危機にさらされているのが、ここ1、2年の世界の現況である。

 アフリカの乾いた大地を見て来、日本に帰ってきてつくづく思うのだが、日本には、きれいで豊富な水、肥沃な土壌、豊かな水田という素晴らしい財産がある。今の時代、農作物も貿易自由化の波を逃れることはできまい。ただしEUの農業国のように、自分たちの「食べ物」の品質と供給を守りながら、うまく世界経済と自国経済を統合させていく道もあったのではないか。
 日本の失われた自給率と「食の安全」を取り戻すことは難しい作業だが、鍵はここでも「消費者の意識」にある。誰もが国産の有機農法で作られた穀物・野菜を望むようになれば、農水省も関連企業も農協も動かざるを得まい。生産者の農家の人々だって、農薬まみれの作物の危険さには、とっくに気づいているのである。スーパーなど小売店の店先で、まず消費者が声を上げることが、一見単純なように見えて、まとまれば途方もなく大きな力になる。