Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

山口 絵里子 『裸でも生きる 25歳女性起業家の号泣戦記』

 ご無沙汰してしまいました。仕事で大きな案件が終わったので、これからガシガシ再開していきます。

 再開第一冊目は、メイド・イン・バングラデシュのバッグ製作・販売会社「マザーハウス」社長・山口さんのエッセイ。10代の一念発起からはじまり、苦労を重ねながら25歳にして都内に直営ショップを持つまでに至った経緯を自伝形式で綴っています。
 高校生や大学生、若い社会人、とりわけ「途上国」「開発」「貧困」というキーワードに関心を持っている人、そして何か見えない閉塞感にさいなまれて自分自身の道を失いかけている人。すべての人に、読んで欲しい本です。

 工業高校から一念発起して慶応のSFCに入学⇒英語コンプレックス(自分と同じ)⇒哲学、政治、経済、開発学⇒開発コンサルタント米州開発銀行ワシントン本店でインターン⇒現場が知りたくてバングラデシュ2週間⇒そこで現地の大学院入りを出願、合格⇒現地の大学院で開発を学ぶ傍ら、三井物産の現地インターン⇒ジュートという素材に出会い「途上国発のブランド」作りを目指し起業を決意。ここまでで5年。その後、1年で自身デザインのバッグ150個を現地生産、そして日本で株式会社を設立して輸入販売にこぎつけたのが06年3月。本当にジェットコースターのように生きている方だと思います。

 援助や寄付でもない。善意から来る最近流行の「フェアトレード」でもない。純粋に、先進国の消費者が、素材・デザイン・品質で「かわいい!欲しい!」と思える商品を作る。
 ダッカの工場で帝王のように傍若無人に振舞うアメリカのバイヤー、そこでうつむいてミシンを縫う労働者たち。そこで、現地の生産者がうつむくのをやめ、誇りとプライドを持ってモノ作りにあたるブランドを作る。
 先進国の消費者と途上国の生産者が真に対等な立場で向きあえる環境を作ることで、政治不安や貧困、洪水といったマイナスのニュースが絶えないバングラデシュに希望の灯をともすことが、山口さんの夢。

 とにかく泥臭くて、トライアンドエラーで、夢に向かって純粋にひたむきで。自分と2歳しか変わらないのに、こうも違うものかと(苦笑)、思わず今の自分について真剣に考えさせられてしまいます。

 米州開発銀行でのインターンを通じて、公的セクターの開発援助そのものに疑念を抱く山口さん。その疑念は、当時政策NGOで働いていた3年前の自分とそのまま重なるような気がします。
 色々あってまさに今「公的援助機関」で働く自分も、この4月で3年目になります。仕事の折々で、浮かんでくる疑問を全て解消できないまま業務に押し流される自分、個人としての思考・振り返りが止まったまま、都合の良いところで会社の名前を引き合いに出してとにかく物事を進めてゆこうとする自分。すべては自分のキャパのなさから来ている結果ですが、そんな自分のネガティブな部分がたくさん出てきて辟易とさせられている今日この頃。自分の原点が何だったのか。今の夢は何で、そのために今から何をするのか。会社と自分を重ねるのではなく、いち個人としての自分のなかで、もう一度考え抜いてみよう、とこの本を読んで思わされました。
 やるべきことは、自分の目の前に見えている。とにかく、ぶつかること。

                                  (講談社、2007年) 


【補論:「途上国発ブランド」は成功するか】

 バングラデシュは「アジア最貧国」といわれ、政治不安、汚職、頻繁な自然災害といった不安要素を抱えながらも、その実、高い人口圧と若い労働力、軽工業における技術蓄積、近隣に控える中国・インド・アセアンといった大市場など、輸出志向の経済成長のポテンシャルが高い国でもある。そのポジティブな面が一番発揮される可能性があるのが、同国の牽引力となっている繊維産業である。山口さんの掲げる「途上国発のブランド」は、山口さんのような海外発の経営者の手を借りずとも、案外早い時期に、バングラデシュの繊維産業のなかから生まれる可能性は大いにある。
 ただし現在のグローバル世界経済における問題は、既に既得権益を得ている欧米や日本の大資本が、技術基準や資金を囲い込み、後発国を身動きできないようにしている点にある。先進国が後発国に市場開放を求めるのであれば、将来予想されるより熾烈な競争を覚悟しつつ、技術・資金面において「競争の初期条件」を同じくすべきである。それは、これまで限られた資源の中で一方的に経済的恩恵を享受してきた先進国の義務でもある。
 日本のいち消費者レベルにおいて可能なことは、まず日本で消費される食糧、日用品、衣料、資材、エネルギー、これらのものが昨今はかなりの割合で海外の、とくに後発国で生産されているものであることを認識すること。私たちは、これらの「商品」に対し、本当に適切な対価を支払っているのだろうか。市場においては、需要者のマインドが供給者の行動を変える。先進国の消費者が、生産者の姿にまで想像力を働かせて消費行動を取れるかどうか。個々の影響力は小さいが、まとまれば大きな力になる。

 ↑特にこの本の書評ではないのですが、長々と失礼しました!