Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

森 絵都 『風に舞い上がるビニールシート』

 直木賞作家・森さんの短編集。UNHCR国連難民高等弁務官事務所)の東京事務所を舞台にした小説が入っているので、それを目当てに読んでみました。他の5編をあわせて、全6編。

 お目当てのUNHCRの編は、本のタイトルにもなっている「風に舞い上がるビニールシート」。UNHCRの東京採用一般職員である主人公・里佳の元夫で、UNHCR専門職員であるエドの言葉。
風に舞いあがるビニールシートがあとを絶たないんだ。・・・僕はいろんな国の難民キャンプで、ビニールシートみたいに軽々とふきとばされていくものたちを見てきたんだ。人の命も、尊厳も、ささやかな幸福も、ビニールシートみたいに簡単に舞い上がり、もみくしゃになってとばされて・・・」

 ストーリーは、エドがアフガンで殉職してから3ヶ月後、里佳が東京のオフィスで上司とやり取りをする場面から始まる。里佳の回想形式で、過去のエドとのやり取りが主に描かれる。
 エドは上記のセリフからも分かるように、1年間のうちほとんどを連絡手段やセキュリティもままならないフィールドで過ごしていた。里佳は結婚後7年、東京の自宅で「家庭を守」っていたが、幸せな家庭を穏やかに築いていきたいと願う里佳と、世界中の危険なフィールドに身を投じ続けるエド。2人の結論は、離婚すること。彼の死から3ヵ月後・ストーリーの最後で、里香はエドが死んだアフガンに赴任することを自ら上司に願い出る。

 ちなみにUNHCRは国連機関のなかでも世界でもっとも厳しいフィールド(スーダンコンゴ民、アフガン、イラク、Etc.)でオペレーションを行うことで有名。冷戦崩壊後の混乱した世界において、とにかく「現場主義」「難民の『命』に寄り添う」ことを、フィールドで徹底的に実践してきた組織です。

 このストーリー、他人事とは思えずなかなか頭から離れません(_ _) エドの気持ちも、里佳の気持ちもよく分かる。
 UNHCR、あるいは同様の厳しい職場が、いつか自分のキャリアと重なることはあるのだろうか。そのときは自分も、エドのような選択を迫られることになるのだろうか。・・・いずれにせよ、とりあえず今はまず英語とフランス語だな。

                                   (2006年、文芸春秋社