Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

濱田 健司 『農福連携の「里マチ」づくり』

 JA共済総合研究所の濱田氏が、「農福連携」の仕組みと事例を解説した本。
 
 とある地方部の自治体の方から「農福連携」という言葉を聞いて、調べてみようと思って手にとったのがこの本。写真や図表も多数入っていて、分かりやすい構成になっている。
 「農福連携」とは、その名の通り、「農」(農生業)と「福」(福祉。障がい者の就労)をつなぐ取り組み。日本の農業は、担い手不足にあえいでいる。働く意思のある障がい者のうち、就労できていない人は6割弱に上る。障がい者向けの園芸療法や農作業体験など、農業と福祉の緩やかな連携はこれまでもあった。これを超えて、障がい者に本格的に就農させ、実際に収益を上げようという試みである。「障がい者に農業はできない」という声もあったが、近年は、各地で事例が生まれているという。そして、そこで新たな価値が生まれることにより、高齢化や人口減少で停滞したまちも活性化できる可能性があるという。

 本書では、この様々な事例が紹介される。最も印象に残ったのは、広島県庄原市社会福祉法人・優輝福祉会のとりくみ。高齢者と障がい者の施設、保育園を経営。敷地には、パン屋とレストランもなっている。近隣の農家から野菜を調達して、施設の食材として使う。スタッフと障がい者が組になって、農家の集荷を手伝う。捨てるはずだった自家栽培の野菜は、施設のレストランやパンやで仕える地域通貨。職員300人、障がい者150人、高齢者500人、年間の食材費だけでも一億数千万円かかっていたが、いまや食材の40%近くをこうして地元で調達する。また、住宅団地の開発にも参画して、人を集めるための特色ある団地にするために、敷地内の源泉を使って足湯を作る。お湯を温めるための光熱費は、里山バイオマス。手間がかかる作業だが、「手間がかかるから、障がい者の仕事が生まれる」。読了後に気づいたが、この庄原市の事例は、前回投稿した『里山資本主義』でも紹介されていた。

 鹿児島県大隈町社会福祉法人白鳩会は、40年も前から障がい者と健常者が一緒になって農業を行い、今では農地を東京ドーム10個分にまで広げている。障がい者が自立した生活を送るため、療育目的ではない、稼ぐための農業を、企業体として行う:
「南大隈町で自立した生活を送るには、最低月11万円必要です。障がい者年金の7万円を引いたら、4万円。じゃあ4万円を達成するには、どうするか。まず、職員は給料を20万円もらおうじゃないか。この20万円は、国から入ってくる。もし、この職員が自分の給料、20万円を農業で稼ぐ、という意識で働いたとしたら、5人の障がい者に4万円を支払うことができる。」
「職員と障がい者がチームとなって、農業で、いっしょに月20万円の収益を目指していく。すると、そこには教えたり、教えられたりする絶対的な関係はなくなる。」
かつては、障がい者を使って儲けようとしているのではないかと見られ、行政からも目を付けられていた。白鳩会の取り組みが評価されるようになったのは、障がい者も自らの努力によって自立できるという考え方が広まった、つい近年になってからのことだという。

 本書で紹介されている事例は、いまでは成功事例のように見えるが、そこに至るまでには言葉では語りつくせないご苦労があったに違いない。決して簡単なことではないと思うが、こうした取組みに労力を傾けられてきた関係者の方々には、純粋に尊敬の念を抱かざるを得ない。『里山資本主義』の考え方にも通じるかもしれないが、こうした取り組みがもっと広がれば、たとえGDPには直接あらわれないにしても、もっと居心地の良い、生き生きとした社会になっていくのではないかなと考えさせられた。

(2015年、鹿島出版会

https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-db-4e/s061139/folder/693328/75/41448875/img_0_m?1531035358