Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

池上直己、J.C.キャンベル 『日本の医療 統制とバランス感覚』

 日米の医療政策の研究者が、日本の医療制度と政策過程を解説した新書。

 日本の社会インフラについて勉強している関係で、会社の同僚から薦められて読了。当時の米国で、医療改革の参考として日本の医療制度を紹介するために企画されたプロジェクトの成果とのこと。米国の読者も想定して書かれた本だけあって日本の医療制度・政策の本質が簡潔に書かれており、大変読みやすい。

 いわく、日本の医療制度の特色は、(米国に比べ)低コスト・平等なサービスであって、これを可能にしたのは診療報酬体系、国民皆保険制度など国による統制とともに、日本社会に特有のバランス感覚(保険者の間、医療提供者の間、及び両方の間)である。こうした制度は、医療政策の「主役」である旧厚生省(公衆衛生のための医療統制)と医師会(プロフェッションとしての自由)の相克から生まれた。米国の医療の課題を念頭において、国民全員がサービスを受ける権利を有し、かつ患者にはその質が判断しにくい医療に、市場原理を単純に適用することは「きわめて困難」であるとする。但し、現状維持ではなく、医療経済(効率と競争原理)、消費者主義(情報公開と患者による選択)、科学主義(診療パターンの標準化と専門性の追求)という3つの観点からの継続的な見直しが必要であると結論する。

 米国の医療制度に対する問題提起として書かれた本ではあるが、一般的な日本人にとっても、日本の医療政策の本質を抑える上で大変参考になると思われる内容。手許に置いておきたい一冊。

中公新書、1996年)

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