Foomin Paradise (読書ブログ)

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岩田 靖夫 『ヨーロッパ思想入門』

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 哲学研究者の岩田氏が、ヨーロッパ思想の源流であるギリシア思想とヘブライ信仰、それらが近現代の西洋哲学に与えた影響について解説した新書。
 
 岩田氏は、ヨーロッパ思想は「ギリシアの思想」と「ヘブライの信仰」という2つの礎石から成っているとし、前者の本質を「人間の自由と平等の自覚」「理性主義」、後者の本質を「唯一の超越的な神が天地万物の創造主であること(アニミズムの否定)」「神が『自己の似姿』として人間を創造したこと」「イエスの説く神の限りない優しさ」にあるとする。

 第一部では、ホメロスが描く神々(擬人化された自然の力)、一連のギリシャ悲劇やアリストテレスら哲学者の業績を紹介し、ギリシア思想の根幹が普遍的真理の追求やデモクラシーの擁護にあったことを指摘する。第二部ではイスラエル人の歴史と旧約聖書、それを継いだ新約聖書を紹介し、他者とともにあらんとする神、その神の似姿としての人間のすがたを描き出す。第三部では、この二つの源流のもとに生まれ出たその後の西洋思想が概説される。両者は、アリストテレス哲学を受容しキリスト教信仰と調和させたトマス・アクィナスによって統合され、以後の西洋哲学・思想すべてに影響を及ぼした。本書ではその例として、デカルト、カント(理性主義)、ヒューム(経験主義)、ロック(民主主義)、キルケゴールニーチェ実存主義)らが紹介される。

 「ジュニア」新書とはいえ、これ一冊でヨーロッパ思想の見取り図が分かる。この方面に関心のある人は入門書として一読しておくと良いと思う(当方ももっと若いときに読んでいれば・・・と後悔した)。個々の思想・哲学についてはもちろん本書だけではカバーしきれないので、本書を読んで深めたい分野があれば、その詳細は他の本を随時あたることになる。

 蛇足だが、本書を読んだあと「では東洋思想の源流は何か。西洋思想との相違はなぜか」とふと考え込んだ。たとえばジャレド・ダイアモンドの論考によれば、中国では地理的要因によって古代から統一的な大帝国が栄えたが(小国が乱立し続けたヨーロッパとは対照的)、このことが、社会や組織の秩序を重んじる一連の中国哲学に影響を与えたと言えるかもしれない。自然に対する接し方も、西洋のそれ(人間中心主義)との比較で見るとその違いは大きいが、もしかしたら水害や地震といった自然災害の多さが自然に対する畏怖の念を醸成することにつながったのかも、等々。こうした点についても追って自分なりの考えをまとめてみたい。

(岩波ジュニア新書、2003年)

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