Foomin Paradise (読書ブログ)

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谷口 正次 『入門・資源危機 国益と地球益のジレンマ』

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 元太平洋セメント専務取締役、資源・環境ジャーナリストの谷口氏が、資源を見る上でのポイントや各鉱物資源の特徴、地球環境問題との関係等について概説した本。
 
 冒頭で、資源問題を考える際のポイントを、①資源の枯渇性(掘ればなくなる)、②資源の地政学的な偏在性、③国際大資本(メジャー)による寡占支配、③地球環境への影響の4点にあるとしたうえで、各鉱物資源がはらむ問題について掘り下げて行く。取り上げられるのは、①鉄、金、銀、銅などの金属鉱物資源、②石灰石リン鉱石石英などの工業用鉱物資源、③ニッケル、マンガンなどの希少資源(レアメタルレアアース)、④石油、天然ガスなどのエネルギー資源(本書で紹介されるのは石炭とウランのみ)の4種類。白金(プラチナ)の極端な偏在性(南アとロシアに世界の95%が埋蔵されている)、携帯電話等に不可欠なタンタルとコンゴ内戦の黒い関係リン鉱石の枯渇によって苦境に立たされているナウル共和国などのエピソードも登場する。

 本書によれば、日本は海外の鉱物資源に依存してきたにも関わらず、総合商社らが安定的に輸入を確保してきたこともあり、戦略物資という意識は薄れる一方だった。国内の資源開発の衰退に伴い、資源開発について専門的に教える場所が失われたことも遠因。今後のあるべき資源戦略・資源外交の方向性として、「スイカ縦割り理論(地球をスイカに見立てて陸地部分を縦に5分割すると、分割された各スイカには殆どあらゆる資源が分布している)」をもとに、近隣の資源大国オーストラリアとのFTAを通じた関係強化、また極東の資源開発を念頭に置いたロシアとの関係強化を提言する。また既に寡占状況にある資源市場において国策としての思い切ったM&Aの推進、低品位鉱の利用技術や省エネ・環境技術といった日本の優位技術の活用、資源大学校の本格再開など資源教育の強化(たとえばフランスでは、鉱山学校は国立行政学院や理工科学校とともにグランゼコールの一である)を提唱する。

 資源開発と地球環境問題との関係についても、多くの紙幅を割いて触れている。製鉄に必要な薪のために広範な森林伐採が進んだ中近世のヨーロッパ諸国(現在の森はほとんどが植林による二次林)、ニッケル鉱石の採掘によって70%もの珊瑚が死滅してしまったニューカレドニア、鉱石の選鉱工程で排出されるテーリングと呼ばれる廃棄物(たとえば金の場合、採掘によるズリと呼ばれる廃石や製錬工程で出るスラグもあわせると、1kgの金を取り出すまでに1,360トンもの廃棄物が出る)による河川や海洋の汚染など、当方これまで知らなかったエピソードが多く紹介されており、とても勉強になった。他にも、資源開発を牛耳るスーパーメジャーら世界の資源会社各社の概要についても触れられており、この分野の「入門」としてまさに盛りだくさんの内容。

 2005年の本書発行以降、とくにレアメタル等希少資源の争奪戦についてはメディアでも注目が集まり、意識は徐々に変わりつつあるように思えるが、谷口氏の憂慮が根本的に解決された訳ではない。たとえばアフリカは中国始め世界各国による資源争奪戦の場となりつつあるが、日本もより戦略的にかの地にアプローチして行く必要があるだろう。フランスなど他の先進国と比較して本書でその必要性が論じられる資源教育制度なども、国策としてより体系的に整備して行く価値がありそうである。

新評論、2005年)

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