Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

野田 直人 『開発フィールドワーカー』

 開発援助の専門家として林業やコミュニティ開発に携わる野田氏が、フィールドで働く開発ワーカーとしての心構えをまとめた本。

 冒頭で、途上国における開発ワーカーの特徴として、①異なった社会背景の中に入る、②圧倒的な力を持つ、③他人の変化を望んでいるという3点を挙げ、これらをしっかり認識しておかないと、裨益者である地域住民のリアリティに即さない援助になりかねないとする。その上で、開発プロジェクトのデザイン、自身の能力開発、地域住民との関係などについて、開発ワーカーが留意しなければならない点を挙げていく。たとえば:

・必ずしも「顔の見える援助(顔を見せる援助)」にこだわる必要はない。どんなに姿を隠そうとも、地域住民は外国人の存在に気付いている。更に顔を出すとなると、援助する側の論理にプロジェクトがなびいてしまう可能性もある。姿を見せる役割は、日本人が帰国した後もモニタリングを続けていく現地スタッフらに任せるのが良い。

・途上国に向かう最近の日本人開発ワーカーは、事前の勉強ができていない人が多い。いまや「資料がまったく見つからない地域を探す方が困難なくらい」の時代であり、現地にいってから初歩的な事実に気付くようでは遅い。

・現地で不遜な態度を取る者もいるが、開発ワーカーというのは、現地では常に強い立場にあり、派遣する側の組織も批判しづらい。自らを律せねば、何でもできてしまう恐ろしい職業である。また「海外向き」と呼ばれる人もたまに居るが、日本で通用しない人が海外でも通用するはずがない。

・住民参加による開発手法が盛んになっており、住民から集会参加のための金銭的代償(労賃や日当)を求められるケースも多い。「援助慣れは良くない」として抵抗を示す人もいるが、住民にとっての機会費用は開発ワーカーが考えるよりも高く、強いインセンティブを欲しているのは当然のことであり、可能であれば代償を払うべきである。さもなければ、その計画は住民にとって的外れないし少なくともその重要性が理解されておらず、計画自体を見直す余地がある。

・プロジェクトとは、地域住民にとって連綿と続く日常の開発プロセスの中で、ときおり現れる一時的なイベント、ないしパーティーのようなもの。開発ワーカーはとかくプロジェクトありきで物事を考えがちだが、あくまでプロジェクトはこうした住民の日常プロセスのためのものに過ぎないと自覚して、計画にあたるのが大事。

 本書を入手してかれこれ10年近くになるが、読み返す度に新たな発見があるし、自分も開発ワーカーの一人としてその都度考えさせられるものがある。たとえば住民への日当支払いは、この業界でも多くの人が嫌がり、プロジェクト実施にあたり関係者の中でときに一番の争点になったりもするのだが、あえてそこに住民目線での異論を差し挟む辺りはいつも読んでいてハッとさせられるし、また開発ワーカーに事前の勉強や自律心を促すくだりは、あくまで現地の人たちと話すことで解決策を見出そうとした服部正也氏の言とも通じる部分があり、肝に銘じさせられる。開発に携わる職業の方なら、いつも手許に置いておいて損はない本。

築地書館、2000年)

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