Foomin Paradise (読書ブログ)

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レオポルト・インフェルト 『ガロアの生涯 神々の愛でし人』

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 理論物理学者のインフェルト氏が、激動期のフランスで僅か20歳で命を散らした革命家にして、「ガロア理論」で知られる天才数学者、エヴァリスト・ガロアの生涯を描いた伝記。

 伝記とはいえ、本人にまつわる記録が限られていることもあって、インフェルト氏が冒頭と巻末で自ら詳説している通りかなりの創作が入っている。とはいえそのぶん臨場感にあふれた場面に富み、ガロアの信条や性格が分かり易く浮き彫りになっているし、小説のように最初から最後まで一気にぐいぐい読ませる。
 
 ルイ・グラン中学校で無味乾燥な生活を送っていたガロアは、ルジャンドルの『幾何学原論』を読み、その明晰さと美しさの虜になる。数学の才能を開花させたガロアだが、その甚だ強い自尊心が災いし、愚問を続ける面接官に黒板消しを投げつけ、フランスの最高学府である理工科学校(エコール・ポリテクニーク)への入学には失敗する。また王政復古のまっただ中にあった当時、自由主義者の父親が自殺に至ったこともあり、共和主義者としての言動も顕著になる。1930年の7月革命を契機に高等師範学校を放校となり、彼の政治活動は激化する。国王を侮辱した咎で投獄中、彼が再度学士院に提出した論文は「説明不十分」として却下される。出所後、女性を巡る争いから決闘に臨み、それが致命傷となって20歳の若さで夭折。その前夜には、却下された論文の添削や、更なる数学的着想を含む友人への手紙を書き上げ、これが生涯最後の著作となった。彼の業績が数学者らによって評価されるのは、さらに数十年の年月を待たねばならなかった。

 彼の死については諸説あり、インフェルト氏による本書は、「追記」で数々の証拠を挙げつつ、これが過激な共和主義者として知られていたガロアに対する、秘密警察による謀殺であったとしている。本書発行後も、この点についてはさまざまな新資料が発見されており、おそらく真実はそう簡単に明らかにはならないだろう。ただ今や、その死にまつわるミステリーさえも、激烈に生きたこの早熟の天才の生涯を彩る、ひとつの引き立て材料となっているような気がしないでもない。

 ガロアの数学的業績を紹介するには、正直当方には荷が重すぎる。高校時代、数学の先生から「方程式は4次まではお前らでも普通に(代数的に)解ける。5次からは不可能だ」と言われたのをぼんやり覚えているが、本書によれば、まさにこの問題に取り組んだのがガロアだ。彼はわずか16歳にして、代数方程式が冪根によって解かれるための条件についての研究を始め、解明するに至ったが、その極端に簡潔な証明方法が災いし、ついぞ同時代の数学者には理解されることがなかった。その業績は、後代に群論という新たな学問分野として磨き上げられ、現代では数学のほぼ全ての領域に大きな影響を及ぼしている。当方、数学は高校時代に一番好きな教科で、大学以降でもしっかり勉強したいと思いつつ、その機会をずっと逃してきてしまった。本書を読んだのをきっかけに、あの世界に浸る時間を、近々もう一回作ってみたいと思っている。

(原著:Leopold INFELD, "Whom the Gods Love: The Story of Evariste Galois" 1948.
 邦訳:市井 三郎 訳、第1版1950年、新装版(第4版)2008年)

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