Foomin Paradise (読書ブログ)

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リュック・フォリエ 『ユートピアの崩壊 ナウル共和国』

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 かつてリン鉱石輸出によって栄えながら、その枯渇と放漫な財政運営によって破綻した南太平洋の島国・ナウルの歴史を描いたノンフィクション。
 
 ナウルに初めて外国人がやってきたのは1798年。1896年にリン鉱石が見つかり、イギリス・ドイツ資本によって1907年から採掘が始まった。1968年に国連信託統治領から英連邦内の共和国として独立、リン鉱石輸出から得た収入をもとに世界最高レベルの一人当たり所得を達成し、約4,000人の同国民は、無税、無料の社会保障、全国民への年金支給といった特権を享受した。1990年代にはリン鉱石は枯渇すると予測されていたにもかかわらず、ナウル人は、鉱石採掘を外国人労働者に任せ、採掘地の地代から得られる収入で高級車や家電、旅行といった消費に興じた。当時は「オーストラリア・ドルティッシュペーパーの代わりに使っている人」さえ居たという。

 1989年からはリン鉱石の産出が減少に転じる。海外投資の失敗や政治的混乱、有力者による収奪(政府の会計帳簿は殆ど付けられていなかった)もあり、国家財政は危機に瀕する。2000年代の経済的奇策(タックスヘイブン化、自国パスポートの販売、政治難民の収容)も失敗に終わり、ガソリンや食料品の輸入さえも滞るようになった。かつての放漫な生活様式がたたり、国民の約8割が肥満、生活習慣病罹患率は世界トップレベルにある。現在南オセチアアブハジアの独立を承認する代わりにロシアから経済支援を取り付け、これによって行う地中深くに眠るリン鉱石の二次採掘に、国の命運を託そうとしているという。

 ここまで典型的な崩壊の道筋を辿ったナウルの歴史は、外国人にとっても大きな示唆に富んでいる。まず、資源に頼り切った経済は長続きせず、結局は労働と着実な資本の蓄積によってしか長期的に持続可能な経済は成り立ち得ないこと。リン鉱石の二次採掘も短期的な選択肢としてはありだが、その収入を今度こそ消費ではなく、リン鉱石後を見据えた投資に振り向けないことには、以前の二の舞を繰り返すだけだろう。人口約1万人の島国にできることは少ないかもしれないが、漁業及び加工業、あるいはこの負の歴史を逆手に取った観光業(エコスタディーツアー)など、やれそうなことは何でもやってみるしかない。かつての所得レベルを取り戻すのは無理でも、最低限国民が暮らすのに必要な富を持続的に賄うことができるようになれば、環境復興のモデル国として、再び世界の注目を集められる日が来るかもしれない。

(邦訳:林 昌宏 訳、2011年、新泉社
 原著:Luc Folliet "Nauru, L'île Dévastée: Comment la civilisation capitaliste a détruit le pays le plus riche du monde" 2009)

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