Foomin Paradise (読書ブログ)

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英「エコノミスト」編集部 『2050年の世界 英「エコノミスト」誌は予測する』

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 英「The Economist」誌の編集者たちが、人口、経済、技術、科学といったそれぞれの担当分野について2050年の世界を予測する本。
 
 この手の予測本はかなりの数が発行されていて普段は手にも取らないのだが、同誌のクオリティを知る読者の一人としてついつい購入してみた。カバーされているテーマは幅広く、最近の同誌で度々取り上げられるトピック、例えば新興国の経済(人口動態の点では中国よりもインドが有望)、先進国の高齢化や成人病、社会保障の問題、ソーシャルメディアの普及と展望、北極圏の温暖化がもたらすインパクト(航路、地下資源、地政学)、民主主義の可能性と限界(経済第一主義と公共心の相克(この辺りはジャック・アタリの言う「超帝国」と「超民主主義」のコンセプトと通じるものがある))などが一通り網羅されている。

 さて個人的に一番面白かったのは第四部「知識と科学」。「次なる科学」の章は、「知的学問としての化学は、すでに枯渇した」「物理学も希望が持てないことには変わりない。宇宙の基本的構造について学ぶべきことはまだまだ多いのに、研究に必要な装置は巨大化、かつ高額化の一途をたどっている」、生物学が「次なる化学のフロンティア」だと断言する。生物学は、情報科学やナノ科学、ひいては天文学とも相互作用を生み出しつつ、生命の起源や脳のしくみ(情報技術に関する第18章では「2010年、世界中のコンピュータをつなぎ、処理可能な命令数で演算能力を計算すると、人間の脳がおよそ5分間に発生させる神経インパルスの最大数ほどにしかならないことがわかった」というエピソードが紹介される)といった未知の問題に関し大きな成果を挙げていく公算が高いという。また科学振興の地理的要因として「権威に従うのではなく挑むことで進展する」科学の性質から、儒教的な上下関係や専制的な政治体制をもつ東アジアや中国ではなく、自由主義的・民主的な環境を持つ欧米や新興国で言えばインドのほうが前途有望だとする論考は、若干のバイアスを感じつつも、うなずける部分もある。

 最後の「予言はなぜ当たらないのか」の章も秀逸。実際のところ過去にも様々な予言がなされてきたが、そのほとんどは外れてきたとしたうえで、何か新しい技術や発見が広く人々の生活や社会にインパクトを与えるのは「低価格化」のタイミングが鍵だとする。そのうえで、今後40年間に大きな変化が見られる分野として、エネルギー(太陽光やガスはもっと廉価になる)やバイオテクノロジー(幹細胞を通じたより効果的で廉価な移植医療)を挙げている。また、土地資源がより効率的に使われるようになることから、森林再生や野生植物・動物保護について、2050年は「広範囲にわたる環境復興の時代になるだろう」と述べている。

(原著:The Economist "Megachange: The World in 2050" 2012.
 邦訳:東江 一紀、峯村 利哉 訳、文藝春秋、2012年)

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