Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

柴田 明夫 『コメ国富論 攻めの農業が日本を甦らせる!』

 丸紅経済研究所の柴田氏が、コメの大増産、そのための農政の転換の必要性を訴える本。

 同氏は、主に逼迫する世界の穀物需給、コメ農家の後継者不足、耕作放棄地の増加などを背景として、食糧自給率の増加、つまりコメの「大増産」は、待ったなしの課題であると述べる。コメは「日本という国の原点」であるが、現在、総面積のうち約4割もの水田が生産調整の対象となっている。コメ生産の基本的な考え方を「縮小均衡」から「拡大均衡」へと切り替えることで、前途が開ける。短期的に予想される供給増については、政府備蓄米の増加や生活保護世帯への現物支給、米粉バイオ燃料への利用などで対応する。それでも米価は下落することが予想されるが、一定規模の生産者に対する直接補償については否定していない。同氏は更に最終章で、アジア域内における共同備蓄構想、そして日本米のブランド化・近隣国への輸出促進にも言及する。

 市況をつぶさに観察してきた商社マンらしい、冷徹な国際経済からの視点は説得力がある。世界の耕作地が限られているなか増大する人口に対応するだけの食糧生産が果たして可能なのか、多くの人々は懐疑的な目で見ていると思う。アフリカにおける緑の革命やGM作物などの技術的なブレイクスルーは期待できるかもしれないが、将来の危機に際して引き続き外国が日本に食糧を輸出し続けるかどうか、確証はない。
 
 本書の主張である「コメの大増産」について、当方はこれまで、他の果物や野菜と違ってジャポニカ米が海外で受け入れられそうな余地が少ないこと、そもそも国内需要が低下していることから、増産してもあまり意味がないのではないか、と漠然と考えていた。しかし大量生産によって米価が下がれば相対的に国内消費が喚起される可能性もあるし、また本書によれば中国ではジャポニカ米の需要は伸びているという。何より、利用な可能な農地と意欲ある生産者がいるのなら、そうした状況を差し置いてまで恣意的に生産量を低減し続けるのは、純粋に不毛な選択肢のように思える。


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