Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

財部 誠一 『農業が日本を救う こうすれば21世紀最大の成長産業になる』

 経済ジャーナリストの財部氏が、生産・流通の先進事例への取材を通じ、日本農業のポテンシャルとあるべき方向性を論じた本。

 同氏は本書で、消費者の視点をもって優れた農業ビジネスを展開している経営者や主業農家に着目、彼らがより容易に農地を借りられるようにすべきだ、と主張する。戦後に成立した農地法の第一条は、耕作者による農地所有権の保護を高らかに謳ったが、いまやそれが「利権」として主業農家らの事業拡大の足枷になっている。実態として多くの農地保有者が、耕すべき農地を耕さず、税制や補助金の恩恵を受けたまま将来の高値転売に備え「資産」として農地を保有している、と言う。ただし安易な株式会社参入論については、ファーストリテイリングオムロンの事例も挙げつつ「大企業の農業参入は屍累々である」と戒めてもいる。

 財部氏によれば、現在の農政に欠けているのは「消費者」の視点である。京都府福知山市のスーパー・NISHIYAMAは、「日常価格でおいしいもの」を提供すべく、自然農法での農業生産にも参入、あくまで消費者目線で独自のバリューチェーンを展開つつある。高い品質の野菜や果物をドバイへ売り込もうとするイチゴや栗の生産者、「耕さないのでは農地ではない」という行政からの横槍にも負けず生食トマト事業に取り組むカゴメ社などの事例も紹介される。こうした先進的な経営者・生産者を念頭において、小泉政権下で農水次官を務めた高木氏の提言レポートを引きつつ、「農地を経営資源と位置づける総合的で新たな農地関連法制の整備」が必要、と説く。
 
 単なる机上論でなく、生産者や流通関係者からの生の声を拾いながら、現在の農業の問題を浮き彫りにした本書は、コンパクトな分量ながら、多くの発見に満ちている。本書の発行から既に5年が経過したが、その間も農地集積は待ったなしの課題として多くの人々に認識されてきた。現在の安倍政権は、自らの成長戦略の中でこの点を課題のひとつとして掲げ、2013年12月には分散した小規模農地や耕作放棄地を集積、意欲ある経営者・主業農家らに貸し出すために農地中間管理機構を発足させた。現政権が農地改革のあるべき一定のビジョンを示したことは評価されるべきだが、既存の農地所有者に対してどこまでインセンティブを働かせられるかは未知数。これからの政権運営の中で改革の実効性をどこまで高められるか、しっかり見て行きたい。

 (2008年、PHP研究所

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