Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

平野 克己 『経済大陸アフリカ 資源、食糧問題から開発政策まで』

 『アフリカ問題 開発と援助の世界史』などで知られるアジア経済研究所の平野氏が、現在のアフリカ経済の概況について分かり易くまとめた新書。 

 アフリカに対する世界からのポジティブな視線は近年とみに顕著であり、2013年に入って英エコノミスト誌は「希望の大陸」と題して特集を組み、国内でもTICADVに併せて日経ビジネス誌がアフリカ向けビジネスの特集を組んだりしている。とはいえ、アフリカは広大で地域や国によって事情も違うし、またその経済動向は、巷で言われているほど決して順風満帆とは言えない。そうしたネガの部分も含め、冷静になってアフリカのファクト情報に触れて行くことが不可欠だが、本書はその主要なポイントをさらう上で、現在刊行されている日本語書籍の中では最適の本だ。

 第1章は中国の台頭について。中国がアフリカを搾取しているとの批判に対し、平野氏は、これまでの中国の対アフリカ政策の収支はむしろ中国の赤字だろうと述べた上で、中国から労働者を連れてくるのもアフリカの賃金水準の高さや労働力の質の問題があることが背景であり、中国製品の流入についても裨益された消費者の数と国全体の視点を見れば失われた生産部門の雇用を上回る規模の便益をもたらした、と述べる。ただし、かつて中国からの膨大な投資を受け入れて発展したアンゴラが現在一定の距離を置きつつあること、またリビア騒乱によって自国民の「史上最大の救出作戦」を余儀なくされたようにアフリカへの投資リスクが潜在化していることにも触れ、中国の対アフリカ攻勢が転機を迎えつつあることも示唆している。

 第2章は資源開発について。これまでの政策や開発援助がなし得なかったアフリカの経済成長は、2000年代の資源価格高によってあっさりともたらされた。他方で「資源の呪い(オランダ病)」がアフリカ諸国を覆い、製造業は停滞し、またジニ係数が0.7を超えるナミビアなど所得格差の激しい国も目立つ。平野氏は、「資源の呪い」克服が目下の開発課題であると述べるとともに、近年のマリ動乱の例等を引きつつ、世界の資源安全保障にとってもアフリカの平和と安定が重要であることを強調する。第3章では、アフリカの農業生産性の停滞が、アフリカ諸国の国際収支や、ひいては世界の食料安全保障にも影響を与えていることに触れ、その向上がアフリカ最大の課題であると指摘する。また低い食料生産性が高い賃金水準と工業部門の衰退につながっている、とも。第4章は開発援助について「経済成長をODAで胎動できないというのは、いってみれば自明」であることを指摘、また社会政策としても(同一条件同一給付の原則を満たせず)擬似的であり、未だに政策科学たりえていないという。今後の援助の姿として、援助国の国民にとっても便益が生じることを明確に示し、民間部門も含めて両者の相互利益を追求していく必要があると指摘する。第5章は、グローバリゼーションの中で進行する多国籍企業によるアフリカへの投資について。とくに資源開発や情報通信分野、BOP市場において、国境を越えて躍動する企業の姿が描かれる。

 第6章は日本とアフリカの関係について。少子化が進む日本では、経済水準を保とうと思えば製造業では付加価値の高いハイテク製品に特化して行かざるを得ず、アフリカが有するレアメタルの重要性は増していく。また低硫黄のアフリカ産原油など、他の資源についても有望とのこと。援助については、相互利益の実現を念頭に置いた上で、民間投資と連動したインフラ整備、ないし資源開発ないし日本企業のビジネス現場への社会開発型援助を展開する(事業対象地として日本企業の進出先を選ぶ)ことを提言している。
 
 こうした提言には基本的に賛成できる。事実、近年の実際の対アフリカ経済協力も、広域インフラ支援(国際回廊や基幹港湾の整備、ワン・ストップ・ボーダー)など日本企業進出を見据えたものに重点化しつつある。ただし、援助は常に開発目的のみに因らなければならないとか、特定企業を優遇してはならないとかといった議論は、開発援助の実務者の側にも常に内在している。また伝統的に食い込んでいるヨーロッパの旧宗主国、いまやアフリカ中にネットワークを張り巡らせている米国や中国と比べてそもそも日本勢は出遅れており、そうした情報や人脈の蓄積の点でもハンデはある。世界とアフリカの様相は10年前と比べても驚く程変わっており、まずは等身大のアフリカの情報に触れることが第一歩となるが、その上で、日本企業がいかにアフリカで少ないビジネスチャンスを捕まえられるか、また公的部門がそのためにどう環境を整えられるか。特に後者は、50年前と違って従来の画一的なメニューで対応できる余地は確実に狭まっており、アフリカ諸国政府や進出する民間企業にとって魅力的な商品(ファイナンスや付随する技術支援)をスピーディに開発、展開できるかどうかが鍵になる。

(2013年、中公新書

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