Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

有川 浩 『県庁おもてなし課』

 『図書館戦争』などで知られる有川氏が、実在する高知県庁おもてなし課を舞台に、地元の観光振興に奔走する若手県庁職員の奮闘と恋を描いた小説。
  
 当方の地元の高知県が舞台ということで、同僚から進められて読んでみた。著者の有川氏も高知県出身ということで、県内各所の観光スポットの描写から、登場人物の土佐弁に至るまで、どことなく懐かしさを覚えながら読み終えた。当方が役所勤めということもあって、主人公の掛水や、観光特使の吉門が一連の「県庁ルール」にイライラさせられるくだりは、「そうだよなー」と激しく頷きながら読み進めることができた。行政のルールや慣習の中で突破口を見出しつつ、ときに妥協しつつ、おもてなし課の面々が突き進んで行く後半は、爽快感にあふれている。

 観光振興というテーマに、掛水と多紀、吉門と佐和、2組の恋愛模様を絡ませたやり方は、読者によっては賛否両論あるようだ。でも少なからず多くの読者は、(当方含め)そういうシーンの続きが気になってページを先にめくるだろうし、どんなにご都合主義的なハッピーエンドだったとしても(佐和の父・高遠があっさり結婚を認めた下りは、さすがに高遠の心理描写なりがもっとあっても良かったのでは)、結果としてトータルですがすがしい読後感を味わえたのは間違いないので、個人的にはこれはこれで満足。
 
 さて、高知県の観光である。本書には、仁淀川、馬路村、日曜市などユニークな観光資源がこれでもかというほど登場する。なかでも、ウィンタースポーツ以外の殆どのアウトドアスポーツが一度に楽しめるのは高知県くらい、というくだりには思わず「なるほど」と思わされた。当方は高知県を離れて久しく、今では同県を訪れるのも何かの節目の帰省くらいだ。しかし、たとえば、吾川スカイパークが全国でも有数のパラグライダーのスポットとはついぞ知らなかった。「食べ物の隣でチェーンソーが売られている」訳の分からない日曜市の光景も、たしかにアジア(やアフリカ)の無秩序なマーケットを彷彿とさせる。ゆず飲料で県下では知らぬ者のいない馬路村も、泊まりがけでドライブして行ってみるとなると、また新たな発見がありそうだ。これまで他県の人たちに「海も山も川も森もありますよ!魚も酒もおいしいですよ!」とアピールしつつ「でも他には何にもないんだよなー」と心の中で自虐的になるのが常だったが、これからは胸を張って故郷の観光ポイントをアピールできそうである。故郷を離れて久しい当方に新しい視点を与えてくれた、本書と有川氏に感謝。

(角川文庫、2013年)


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