Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

青山 潤 『アフリカにょろり旅』

  東大海洋研究所でウナギの生態を研究する青山氏が、アフリカでラビアータ種の採集を行ったときの様子を描いたエッセイ。

 アフリカにウナギを採集しに行く、と言ってしまえばそれまでだが、その実際たるや、凄まじい。世界に冠たる東大のウナギ研究者チームの実態が、ここまで泥臭いものだとは正直思っていなかった。予算を切り詰めるために小汚い宿に泊まり、現地のバスやトラックで移動し、ときには正体不明の現地食(謎の毛が絡み付いている肉の煮込み)で腹ごしらえをする。情報がないため現地では常に行き当たりばったりで、地雷原の湖畔で釣り糸をたらしたり、漁師を訪ねて酷暑の中を歩き通し倒れたり、ダムの管理会社にアポなし突撃してみたり。それでも、ウナギ採集という調査目的を完遂するために、辛い環境であっても採集可能性のある場所に留まる、自分が倒れないように酷暑の中でも生水は飲まない等、彼らの研究に対する真面目さが各所でにじみ出ており、その部分が、月並みなバックパッカー・エッセイとはひと味違う、独特のアクセントを醸し出している。

 いつも飄々として動じない塚本教授、不器用でときに繊細な後輩の渡邉氏、という個性あふれる同行者との掛け合いも、読んでいてとても楽しい。同じ研究室で長年研究に携わり、もしかすると家族以上の絆を築いている様子が、行間から伝わってくる。読み進めている時は珍道中の様子をただ面白おかしく楽しんでいただけだが、本書を読み終えて、なまじアフリカのときに過酷な環境を少しだけ肌で知っているぶん、彼らの研究と好奇心に対する熱意に頭が下がるとともに、どこか爽涼とした読後感を味わった。

(2009年、講談社文庫)


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