Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

牛山 隆信 『秘境駅へ行こう!』

 秘境駅訪問家の牛山氏が、同氏が運営するウェブサイト「秘境駅へ行こう!」の内容を元に、日本全国の主な秘境駅をコンパクトに紹介した文庫。

 それなりの経緯あって駅が設置されたものの、僻地のため利用者が殆どおらず廃墟同然のようになっている駅、そもそもアクセス自体がきわめて困難である駅など、まさに存在意義を疑ってしまう駅の数々が、本書で紹介されている。
 トンネルに挟まれた断崖絶壁、人家はおろか道路からのアクセスがそもそも不可能な、室蘭本線小幌駅無人地帯で現在は列車が停まらず、訪問のためにはトンネルを迂回して海岸沿いを歩くしかない、函館本線張碓駅。トンネルに挟まれた断崖絶壁に貼り付く、飯田線田本駅、あるいは高千穂鉄道の影待駅。
 個人的にいちばん印象的だったのは、四国山地の山奥、ほとんど無人地帯に作られた2つのスイッチバック駅、土讃線の新改駅と坪尻駅である。当方、幼少期に家族で良く土讃線を利用していたのだが、完全に四国山地の急峻な山の中であるにも関わらず駅が幾つか存在することが、当時子どもながら不思議でならなかった。とくに不思議だったのが、土佐山田駅の隣に位置する新改駅である。そもそも駅の周りに人家などまったく見当たらない上、駅のホームが線路と並行に設置されておらず、上り線でいくとホームに設置された「新改」の看板が、通過する車両の窓からみて左斜め前方に一瞬現れるなど(スイッチバックの引き込み線の奥にホームがあるため)、全くもって訳が分からなかった。いつか各駅停車を使って実際に下車してみようと思っていたが、現在までその思いは果たせていない。本書を読んだのを機に、ぜひ近いうちに訪問を実現してみようと思う。

 確かに田舎のローカル線の時刻表を眺めていると、一日数回しか停車しないような僻地の駅など、「一体どんな駅なのだろう?」と思わず気になってしまったことは、鉄道ファンなら一度や二度あるだろう。しかし、その好奇心を行動力に変えて、ここまで多くの全国各地の秘境駅を踏破、包括的に調べ上げられる人は、そうそういない。同氏の行動力と、費やした時間、そして本書の折々で読み取れる秘境駅に対する愛情の深さに、すなおに拍手。

(2001年、小学館文庫)


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