Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

落合 博満 『采配』

 落合・中日元監督が、2004年から8年間にわたり中日ドラゴンズを率いた経験をもとに、自己啓発や組織論、リーダーのあり方について自らの考えを綴った本。

 同様のテーマを扱った本は多々あれど、8年間で4度のリーグ優勝を成し遂げた同監督の言は説得力に満ちている。2004年開幕戦での川崎投手の起用、2007年日本シリーズ第5戦での山井投手の交代など、当時議論となった一連の采配における自身の考え方についても率直に披露されており、野球ファンにとってはそれだけでも楽しめる内容になっている。

 山井投手交代の件については、「今でもこの自分の采配を『正しかったか』それとも『間違っていたか』という物差しで考えた事がない。ただあるのは、あの場面で最善と思える決断をしたという事だけである」と述べている。勝つための最善の策を思案した結果、中指のマメが潰れて「もう投げられない」と言う山井に代えて岩瀬を投入、見事その試合で53年ぶりの日本一を決めた。山井を代えるか、代えないか。この采配に絶対の正解はなく、どちらの選択肢を選んでも、後代には何かしらの議論が付きまとっただろう。山井投手本人も「仮に8回までパーフェクトで行ったとしても、9回は岩瀬(仁紀)さんに投げて終わって欲しい。そう思いました。完全試合も大きいけど、それ以上に試合に勝ちたい、日本一になりたいという気持ちが強かった」ものの、「結論は岩瀬さんへのリレーでしたが、それを、あえて自分から言い出すことは、やはりできませんでした」との葛藤も感じていた(http://number.bunshun.jp/articles/-/12053
)。ただしその当時、岩瀬投手への継投が試合に勝つ上では一番確率の高い策であったことは、多くの人々が認めている。後の批判を覚悟してでもチームの勝利を最優先させる。これが落合氏の采配の核であり、その信念の強さと、感情や既成概念に容易に左右されない姿勢が、玄人の野球ファンのみならず世の一般のビジネスマンからも支持を得た理由だと思う。

 他にも、「上司や監督に『嫌われているんじゃないか』。そう考え始めた時は、自身を見る目が曇り始めたサインだと気づいてほしい」「技術、仕事の進め方というものには『絶対的な基本』がある。しかし、『絶対的な方法論』はない。(新人を育てる際には)あくまで基本の部分に関してコミュニケートすること」など、多くの示唆に満ちた言葉を見つけることができる。

ダイヤモンド社、2011年)

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