中村 靖彦 『ウォーター・ビジネス』
筆者自身も述べているようにこの業界の雄である多くの多国籍企業への取材が困難だったことも関連していると思うが、この分野を総ざらいする上では、本書の情報量はやや物足りないように見える。それでも例えば、日本の個別事情(ミネラルウォーター、海洋深層水ビジネス等)については多くのページが割かれており、参考になる。またミシガン州で湿地環境保護派の地元住民がネスレ社の取水契約に対して訴訟を起こした事例からは、「水は誰のものか」という問題を考える上でのヒントが読み取れる。著者は、個人ないし民間部門が全ての水を管理することには懐疑的であり、日本の地下水についても「河川法の対象になるような川の水は、国が利用について許可を与えるが無料、その川に流れ込む前の水は、私的な利益のために使って構わない、というのは、いささかわかりにくい考え方」と述べている。
(2004年、岩波新書)