Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

熊倉 修一 『日本銀行のプルーデンス政策と金融機関経営』

 金融庁が実施する「検査」と日銀が実施する「考査」、どちらも国内の金融機関を対象として実施される金融検査の類ですが、その違いを明確に指摘できる人は、業界人でもいがいに少ないのではないでしょうか? (知らなくてもじゅうぶん生活はできますが・・・)

 1月、今月と日銀の金融機構局(もと考査局)に仕事でお世話になったこともあり、日銀の金融システム安定化における役割のあらましを改めて勉強したいな、と思っていた矢先にアマゾンで見つけたこの本。日銀出身の研究者の方が、考査を中心に日銀のプルーデンス政策の概要、歴史と展望についてまとめた本です。著者によれば、(著者の意見が日銀の方針でないことを念押ししつつも、)少なくとも日銀サイドから日銀のプルーデンス政策について包括的に触れた本は少なく、貴重な文献との由。

 本章の構成は良くまとまっており、素人の自分が読んでもすんなり頭の中に入ってきます。日銀が考査と大蔵省・金融庁による行政検査との差別化を図りつつも、時代の要所要所においてその試みがうまくいかなかった事実。また現代においてときに景気変動に影響を与えかねないバーゼル規制を軸にすえるかたちで行政検査がシングルスタンダード化するなか、主にリスクマネージメントの観点から、マクロ経済安定化に寄与する意味合いでも日銀考査が重要な役割を果たしうること、また金融機関にとっても利益のある制度とするために評定結果を開示すべきであるという熊倉さんの主張(実現は難しいように思えますが・・・)には、うなずける部分が多くあります。
 
 また日銀考査の変遷と現状、90年代の金融危機の経験について簡潔にまとめた補論も、自分のような素人にとっては、一読に値します。日本はなぜ「失われた10年」を未然に防げず、今に至るグローバル時代での経済的没落を招いたか、日本人ならば誰しもが一度は考えを至らす価値があるように思います。

                                  (白桃書房、2008年)