Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

野村 進 『千年、働いてきました 老舗企業大国ニッポン』

 なぜ日本には数百年も続く老舗企業が多いのか、ジャーナリスト/拓殖大学教授の野村氏が、多くの国内老舗企業経営者へのインタビューを交えつつ、その実相を紹介する本。

 日本は他国と比べ、いわゆる「老舗企業」の数が多いとされる。本書によれば、573年に創業した大阪の金剛組(寺社建築)を始め、創業100年以上の企業の数は10万以上、その殆どが製造業。翻って、例えば他のアジア諸国では、西欧による植民地支配や華僑資本への締め付け政策といった歴史的背景があり、こうした老舗企業の数は稀だという。また地縁(血脈)に依って立つ華僑資本と比べ、日本の老舗企業は、非上場・家族経営が基本ながら必要であれば躊躇せず有能な人材(婿養子の跡継ぎ社長など)を外から迎え入れてきた風土をもち、また中世から近代に至る歴代の政府も、こうした企業で働く職人の技術を高く評価し、総じて手厚く保護してきた。

 本書で登場する様々な老舗企業の事業や技術は、初めて耳にするものも多く、個々のエピソードに触れるだけでも興味深い。集積回路の接合部に使われる金極細線(金は延伸力に長け、1グラムの純金でも太さ0・05ミリの線に伸ばすと3000メートルもの長さになるらしい)を生産する企業。閉山した鉱山の設備を使い、汚染土壌の処理や廃棄された携帯電話から貴金属抽出を行う企業。自社の酒造技術を生かしてアトピー症状改善・美容のためのエキスを生産する企業。金箔製造の知見を生かし、様々な物質に文字や絵を転写する転写箔(スタンピング・フォイル)技術を突き詰めた企業。こうした企業の事業・技術はなかなか世間一般に紹介されないが、まさに他国が真似できない技術革新を地でいく例ばかりであり、日本経済のネガティブなニュースが多い中にあって、とても勇気づけられる。こうした企業・技術の価値を理解し(ゾンビ企業と混ぜこぜにして補助金をバラまいたりするのではなく)、広い視野をもって長期的な投資や海外への発信につなげられる人材が、国やメディアの中にもっと居てもいいと思う。

(2006年、角川oneテーマ21

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