Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

藤井 清孝 『グローバル・マインド 超一流の思考原理』

 マッキンゼー投資銀行を経て、SAPやルイ・ヴィトンの日本法人社長を務めた藤井氏が、日本人にグローバルマインドへの転換を解いた本。
 全体を貫くメッセージは、日本人が陥りがちな「正解への呪縛」を捨て、異なる文化や価値観と交わり、リスクをとってチャレンジせよ。逞しくあれ、熱くあれ、ということに尽きる。単一の価値観と言語で守られた日本に住むことは、リスクを冒して海外に飛び出すよりも、確かに楽ではある。しかし、自分の数少ない経験の中でも、学生時代に東南アジアでバックパッカーしたり、国際会議でアジアのエリート予備軍と議論したり、アフリカの現場で仕事をしたりする中で、慣れない言語と文化に戸惑いながら、自分をさらけ出してアドレナリンを出しつつ他者と交わった経験こそが、結果的に見ていちばん自分を大きく成長させたな、と感じる。
 他方、この手の自叙伝・自己啓発本にありがちな欧米賛美一辺倒の議論ではなく、短期的な損益に傾きがちな米国の企業文化など、その短所についてもしっかり触れている。また、日本企業が持つ「現場力」は一朝一夕には身に付かないものである一方、とかく日本が欠けがちな「構想力」のほうは、先見の明のある人材を登用すれば実現可能である、と言う。また、「日本らしさ」と国籍で括ってアピールするのではなく、「顧客志向」や「品質へのこだわり」といった普遍的な価値を前面に出すことで、グローバルに響くメッセージになる、とも述べている。
 一つ細部で面白いと感じたエピソードは、自国市場だけを見て商売が出来る国はもはや日本とアメリカだけしかない、という話。すなわち、ローカル言語で仕事をさせてもらえる国は、英語圏をのぞけば世界で日本だけ。本書でも紹介されているように、自国語に対する誇りを隠さないフランスでも、いまや若者がある程度の俸給の職に就こうと思えば(たとえば秘書職ですら)英語力が必須の時代。「必要に迫られないと外国語力は身に付かない」と良く言われるが、たとえば優秀な外国人の若者が国内の労働市場にもっと大挙してなだれ込んでくるとかしないと、日本人には本当の意味での危機感は根付かないのかもしれない。

(2009年、ダイヤモンド社

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