Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

NHKスペシャル取材班 『続・インドの衝撃 猛烈インド流ビジネスに学べ』

 前回紹介した「インドの衝撃」の続編として2008年7月に放映されたNHKスペシャルの内容を単行本化したもの。今回は、インド国内の貧困層向けビジネス、インド企業による日本の製薬企業の買収を通じてみるインド流経営の実態、世界に股をかける印僑パワーの3点に焦点を当てている。

 本書の冒頭、インド国内の貧困層向けビジネス(ボトム・オブ・ピラミッドの頭文字をとってBOPビジネスとも言う)についての章で、この分野での成功で有名なユニリーバの事業の実態を垣間見ることができた。シャンプーや洗剤の小分け売りに加えて、家庭内の波及効果も狙った小学生向けの衛生に関する出張授業、マイクロファイナンスのネットワークを活用した女性販売員の育成など、戦後日本の生活改善事業を思わせるような、地道だが確実に農村部に浸透する手法を取っているのは興味深い。また、孤立した農村向けに、PC設備やインターネット、ソーラー電力から成る電子集会所を設置し、生産物の直接買い取りや農民向けの消費財販売を通じて利益を上げている国内商社・ITCの取り組みも注目に値する。同様に農村部が都市から物理的に遠いという初期条件を抱えた多くのサブサハラ・アフリカ諸国でも、これらのメソッドは大いに応用可能だろうと思う。

 インド流ビジネスや印僑経営者について紹介する他の章も、インド人のマインドを理解する上で役に立つエピソードを含んでいる。苦学の末インド工科大学を卒業し米保険大手ハートフォードのCEOにまで上り詰めたアイアー氏は、①常にハングリーで向上心を持ち、②論理的な問題解決思考に長け、③多くの場合海外経験をもつコスモポリタンである印僑は、グローバル企業の経営者としての適性を備えていることが多い、と言う。翻って、日本で生まれ育ったエリートは、中には例外もいるだろうが、大概の場合①~③のいずれも、本書で紹介されるような典型的インド人エリートには一歩も二歩も遅れを取っているのが実状だろうと思う。裏を返せば、依然として世界の中における日本の相対的な立ち位置が恵まれていることを示してもいるが、一国の繁栄は永遠には続かない。歴史を見れば、日本も明治時代や戦後間もない時期にこうした条件を兼ね備えたエリートが台頭し、日本を世界有数の経済大国に押し上げる原動力となった。今後、日本人エリートが束になってインド人や中国人と互角に戦えるようになるには、国家存亡の危機感が十分に共有される日を待たねばならないのかもしれない。

 (2009年、文藝春秋

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