Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

NHKスペシャル取材班 『インドの衝撃』

 2007年に放映されたNHKスペシャル「インドの衝撃」の内容を単行本化したもの。現代インドの多様な側面のうち、経済発展を支える人材育成、11億人の消費パワー、外交大国としての政治力の3点を取り扱う。
 21世紀はアジアの世紀である、と言われて久しい。その主役は今のところ中国だが、人口動態などを理由として近いうちにインドが経済発展スピードで追い越すといわれている(http://www.economist.com/node/17147648
)。

 本書で一番強烈な印象に残ったのは人材育成のパート。数学と基礎科学に重点を置く世界最難関のインド工科大学の教育、同大学入試のための私塾「ラマヌジャン数学アカデミー」の壁なし・トタン屋根の大教室の授業風景、今や世界に冠たるグローバル企業となったインフォシス社の新入社員研修(とにかく喋りまくるインド人の気質をみてコミュニケーションスキルに重点を置いているという)。とくに「ラマヌジャン数学アカデミー」の特選クラス「スーパー30」の生徒が、家族や故郷の期待を一身に背負って1日16時間数学と物理・化学に打ち込む姿には、度肝を抜かれた。高等数学には、論理的かつスピーディに解を導く地頭の良さに加え、天才的な直感・閃きが必要になる。生まれ持った資質に加え幼少の頃からここまで努力する人材が人口10億強のインドにごろごろしているのかと思うと、残念ながら日本は個々の局所戦では勝てても、総体としての人材の質と量ではちょっと太刀打ちできそうにない、と思わざるを得なかった。
 
 その他にも本書は、ニューデリー郊外の新興都市・グルガオンで見られる中間層の生活の実態、インド市場で韓国など他国企業に遅れを取る日本メーカーの苦悩、核実験再開にみる政治大国としてのアイデンティティ、市場開放の結果苦境に追い込まれる農村部の綿花生産の実態などを紹介している。米国に居住するインド人が、保守系議員にロビーを重ねて関係を深めていった過程などは、なかなか表には見えてきづらい事象であり、興味深く読める。以上を受けてだから日本をどうすべきか、という提言部分は弱いが、具体的なエピソードをもって現代インドを理解するうえでは有用な本かと。

(2007年、文藝春秋

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