Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

赤松 明彦 『楼蘭王国 ロプ・ノール湖畔の四千年』

 歴史学者の赤松氏による、楼蘭に関する最新の研究成果を紹介する新書。
 地名としての「楼蘭」は、ロプ・ノール湖の西、タリム盆地の東の入り口に位置したオアシス都市とその地域一帯のことを指す。紀元前2世紀には「楼蘭王国」の名が『史記』に登場する。同国は、同1世紀には漢によって「鄯善」と名を変え、紀元後5世紀頃までオアシス交易の要衝として栄えた。
 「楼蘭」という名を聞いて、NHKの『シルクロード』で紹介されたミイラ「楼蘭の美女」を思い出す方は、当方含め多いと思う。かのミイラは、紀元前18世紀のものであり、『史記』で確認されている楼蘭王国の時代から更に1500年以上も年代を前に遡る。この1500年間の歴史は謎に包まれたままである。また楼蘭の名を冠するオアシス諸都市自体も、紀元後7世紀頃以降は姿を消し、20世紀初頭に『さまよえる湖』のヘディンによって発掘されるまで、タクラマカン砂漠の下に埋没したままになっていた。
 こうした謎に満ちた楼蘭の研究は今もまさに現在進行形であり、「楼蘭」という美しい漢名も相俟って、歴史好きとしては大いにロマンを掻き立てられる対象になっている。本書では、『史記』をはじめ中国の古典から読み取れる楼蘭の歴史、「さまよえる」ロプ・ノール湖の正体、数多く発掘されるミイラとトカラ語(インド・ヨーロッパ語族の中でも最も西に位置するケルト語派やイタリック語派に属する)文書の謎、古代インドのガンダーラ語で記された資料から読み解く鄯善国の独特な統治形態など、現時点で判明している情報を元に楼蘭を理解するうえで簡潔ながら過不足ない情報が提供されていて、知的好奇心を大いに満たしてくれる。
 ちなみに最近は、砂漠を連泊して実際に楼蘭遺跡を訪れる観光ツアーまで存在するらしく(http://www.kaze-travel.co.jp/silkroad_kiji025.html
)、個人的にはとっても参加してみたいと思っている。

(2005年、中公新書

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