Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

蓮池 透 『奪還 引き裂かれた二十四年』

 「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会」の元副代表・蓮池透氏が、実弟拉致被害者・薫氏の拉致から帰国までの24年間にわたる苦闘を綴った手記。
 本書によれば、警察庁や外務省は各失踪事案が発生した直後から北朝鮮による拉致を確信していたようだが、外交事案・機密事項として、被害者家族に対して殆ど捜査の進捗は共有されなかった。政治家や政府高官に会っても「頑張る」との精神論が繰り返されるばかり。蓮池氏は、「無法国家(北朝鮮)と無能国家(日本)。二つの国と闘わなければ、弟は戻ってこない」と考えたという。前月の日朝首脳会談を受け2002年10月、蓮池薫夫妻は電撃的な帰国を果たす。その後北朝鮮への帰国を仄めかす薫氏に対し親族や友人が必死の説得を試みる場面は、涙なしには読めない。蓮池氏は、北朝鮮に残された拉致被害者の家族の帰還や、北朝鮮の説明では既に他界したとされる他の拉致被害者の消息の解明に今後も取り組み続ける、と本書を締めくくる。

 長期的に見れば、北朝鮮にとっても日本にとっても国交正常化が有益であることは自明だろう。しかし拉致は日本の主権を脅かす犯罪行為であり、正常化への道程において、その真相がうやむやのまま放置されることはあってはならない。もちろん核開発についても米中韓とともに共同歩調を取って圧力を加えてゆく必要があるが、日朝関係正常化と日本を媒介とした周辺主要国との関係構築は、何よりも拉致の全容解明なしにはありえないということについて、あらゆる政治的資源を使って先方との合意を継続しなければならない。  
 ただ、北方領土問題もそうだが(http://blogs.yahoo.co.jp/s061139/35385380.html
)、現在の東アジアの政治経済状況を見ると、日本の存在感縮小に伴って、こうした重要外交事案の解決が時間が経てば経つほど難しくなってきている、という印象もある。小泉政権は、北方領土問題の代わりに北朝鮮問題に注力する姿勢を見せたが、関係者の期待を背負った続く安倍政権が1年で崩壊、以降の政権下ではほとんど進捗が見られない。そうこうする間に、東アジアにおける中露の影響力は大幅に増し、北朝鮮の独裁体制に一定の配慮を見せる中国が大規模な経済協力を展開してきている。近年は外交オンチの政権が続いたが、手遅れになる前に、拉致問題の全容解明についても一気呵成に進展させるよう、関係者の尽力を切に願う。

新潮文庫、2006年)


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