Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

照屋 華子、岡田 恵子 『ロジカル・シンキング 論理的な思考と構成のスキル』

 マッキンゼー社でエディティングに携わる照屋氏、岡田氏が、論理的なコミュニケーションの手法についてまとめた本。重版に重版を重ね、この分野では半ば古典の域に達している。
 実はこの本、学生時代に一度読んだのだが、豊富な具体例で示される各業界の組織や事業についての知識が欠けていたこともあり、大まかな論旨しか理解できなかった。社会人になって6年目、仕事で他者の説明に耳を傾けたり文書をチェックすることも多くなり、「論理的な説明/文書じゃないな」と思うことも増えてきて、(勿論自分自身のコミュニケーションもまだまだ不十分だが、)改めて本書を手にとってみた。実社会に属し、組織や事業の仕組みが肌感覚で分かる今だからこそ、すらすらと頭の中に入ってくる。

 ビジネス上のコミュニケーションについて岡田、照屋の両氏が本書で言っていることは、いってみれば至極当たり前のことである。相手が居るにもかかわらず、独りよがりな結論の独白に陥っていないか。潤滑油のための雑談は別として、あるべきビジネスコミュニケーションの形は、①(課題に対する)結論、②その根拠(事実と判断)、③その方法、の3つしかない。この前提の下、各ケースにおけるコミュニケーションの論理構成は、複数の根拠を並立させる「並立型」か、事実→判断基準→判断内容の順で根拠を明らかにする「解説型」の2通りしかなく、当方の経験に照らして言えば、よほどシンプルな課題でない限り、結論の妥当性を強調し思考プロセスをオープンにして議論を促す上では、後者の「解説型」の方が便利だろうと思う。但しこの場合、「事実」と「判断内容」については対象をMECE(重複がなく漏れのない)でカバーする必要があるし、肝となる「判断基準」については自ら妥当な根拠を示すか、組織や管理職の方針について予め日本語で言うところの「事前のすり合わせ」をしておくことが重要になる(当方の職場は、こうした「方針」の権威が結構強い組織文化である。入社当時は「事前のすり合わせ」をよくサボっため手戻りが多く、なかなか仕事が捗らなかったのを覚えている)。
 MECEの具体例も色々示されていて参考になる。年齢・性別・地域など絶対的な分解方法に加え、4C(顧客・市場、競合、自社、チャネル)、4P(製品、価格、チャネル、訴求方法)、効率・効果、質・量、事実・判断、短期・中期・長期、過去・現在・未来、などなど。言われてみれば日々心がけているものもあるが、仕事柄4C、4Pなどは普段あまり使っておらず、外部との連関を通じて組織と事業の位置づけを考えるために、今後意識して使ってみよう、と今回改めて思った。

 勿論、困難なビジネスコミュニケーションを前に進めるためには、こうした「論理」が整い通じ合った上で、語る人の情熱、受け手のパーソナリティなど、様々な人間的要素が関係してくる。また、完璧な論理の構築に拘泥するあまり、スピードをおろそかにしてしまっては全く意味がない。ただ、当方のようなヒラの社会人が日常(特に組織内部で)遭遇する課題のほとんどは、こうした「論理的なコミュニケーション」を心がけるだけで大体のものはスッキリ落ち着くし、変な手戻りが出ず全体の時間効率も上がる、というのがこれまでの個人的な実感である。経営コンサルティング業界志望の方のみならず、社会で実務に携わる全ての方々におススメできる本。

東洋経済新報社、2001年)

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/F/Foomin/20190829/20190829194756.jpg