Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

エド・ブラドー 『交渉のブートキャンプ 12回特訓プログラム』

 米国のビジネス界で長く実務や経営に携わり、その経験を元に、「交渉術のコーチ」としてマイクロソフトやGS、IBM国防総省など1000社以上を対象にセミナーを開催してきたブラドー氏によるノウハウ本。
 一時はやった「ブートキャンプ」を引いた一見奇抜なタイトルだが、中身はかなりまともである。何事も主張しないと始まらない米国社会で、ブラドー氏がいかに難しい交渉(ビジネスからプライベートまで)をクリアーしてきたか、多数のエピソードが挿入されており、本書の説得力を高めている。語り口は軽快でさくっと読めるが、多くの示唆を得ることができる。

 ブラドー氏は本書で、(米国人にしては意外にも、)一方的な勝ち負けの付く対立型の交渉術を良しとせず、①「対決」を「協調」に変える、②相手の話を聞き、信頼関係を築く、③どちらも満足できる答えを探す、という協調型の交渉スタイルを是とする。②については、「70:30のルール」として、交渉時間のうち7割を聞く時間、3割を話す時間に充てることを薦めている。但し、自らの要求をはっきり伝え、呑めないことはきっぱり「NO」と言い、ときには(ブラフであっても)交渉の決裂も辞さない、断固たる姿勢をもつことが重要である、とも言っている。「脅し」や「泣きいれ」、「時間稼ぎ」といった個別テクニックも紹介されているが 笑、やはり本書を貫く基本姿勢は、前述の①~③を踏まえた「Win-Win」型の交渉スタンスに尽きる。
 社会人も6年目に入ると、ある程度大きな仕事を任されて、組織を背負って外部相手に、或いは内部で上司や部下相手に「交渉」しなければならない場面も増えてくる。本書を読んで一番参考になったのは、管理職に求められる、部下のやる気を起こさせるような「ボノボ・スタイル」のマネジメント術についての項である。「部下をいろいろな才能を持つパートナーだと考え」、一方的な攻撃ではなく、相手の尊重と相互対話を通じて、部下の主体者意識とモチベーションを引き出す。「親と上司は選べない」という格言?もあるが、こうした技術が身についている管理職とそうでない管理職の、何と落差の大きいことか。個人的には、管理職の仕事は究極のところ部署目標の設定と部下の動機付けの2点に尽きると思っているが、部下の主体者意識とモチベーションを奪えば、結果として部署・組織全体の成果にも大きくしてくることは必定である。

幻冬舎、2008年)

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