Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

原 英史 『「規制」を変えれば電気も足りる 日本をダメにする役所の「バカなルール」総覧』

 2009年7月まで公務員制度改革に事務方として関与した政策コンサルタント・原氏による「規制」についての解説本。少なくともここ数十年、日本における「規制改革」の必要性は謳われ続けてきたが、とかく総論が先行しがちなこの分野について、具体的に各論を見ていくとこういうことなんだよ、と分かりやすく教えてくれる本。

 原氏は、日本中に張り巡らされている「不合理な規制」について、「昔作った古い規制をそのまま残しておいて、今の実態に合わなくなっている(例えば明治時代の学校教室の天井の高さ規制)」「現場の事情を知らない役人たちが変な規制を作ってしまう」、ひいては「天下りした役人OBたちを養うために、無用な規制を作る(免許更新制度と全日本交通安全協会)」「既得権益を持つ人たちとお役所がつるんで、新規参入者を排除する(タクシー料金の値上げ・労働時間規制)」とパターン分けしている。一方、先日ユッケで死者の出た生食用食肉については以前から必要性が指摘されていたにも関わらず罰則なしの緩い厚労省局長通達しか整備されていないとの由、結果的に見れば、物事の軽重の判断基準は明らかにおかしい。
 また、法令は「法律」「政令」「省令」の順に降りていくが、家計や企業の活動を左右する肝心の細部は担当省庁の権限で出る「省令」、或いはその解釈を示す「通達」で定められることが多い、或いは、時代が移り変わっているにも関わらず、旧態依然とした選挙運動や議員立法について細かい規制があり、政治家は否が応でも「官僚主導」の風土を叩き込まれる等、興味深いエピソードが満載である。餅は餅屋、元経産官僚として規制の隅々まで知り尽くした原氏ならではの本である。

 規制改革は、大型の公共事業や補助金と違って、多くの予算がなくても、知恵と、既得権益層と戦う覚悟さえあれば実行可能であり、経済成長に与えるプラスの影響も大きいとされている。先日の国連総会で、野田首相がエネルギー・電力政策の見直しを高らかに唱えたが、規制の代名詞とも言える電力業界において、経産省や電力会社と闘う覚悟があるかどうか。同様に、多大な成長ポテンシャルを秘めているとされながら全く事態の進展しない農業や医療、教育といった分野でも、同様の改革に踏み出す覚悟があるかどうか。残念ながら、国民の高い支持によって族議員と官僚を抑え込む、不完全ながらも小泉政権が試みた手法しか、日本人は過去に体験していない。今のところ野田政権に期待されているのは、前政権の轍を踏まずに、党・国会・官僚の協力を得て目前の政策課題を前に進めることだが、願わくば早々にその段階を脱して、上記のような困難な改革についても、関係者との議論を尽くし果敢に国民の判断を問うべきである。

(2011年、小学館101新書)

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