Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

長友 佑都 『日本男児』

 日本代表不動の左サイドバック、所属元のインテルでもレギュラーに定着した感のある長友選手が自身の半生を記したエッセイ。
 
 唐突だが、海外サッカーに詳しくない方はピンとこないかもしれないが、インテルのレギュラーを張るということはとてつもないことである。今シーズンは2位に甘んじたが昨季までセリエAで5連覇、09-10年には欧州チャンピオンズリーグを制覇した、紛れもなく世界最高峰の名門である。明大在学中は故障で試合に出られなかった時期もありながら、FC東京にプロ入り後、僅か3年も経たないうちにインテル入り。昨年のW杯で、カメルーンエトーやオランダのカイトを完封した活躍も記憶に新しい。

 誰もが認めるシンデレラストーリーの主役だが、その実像は、「『また練習するしかない。もっともっと強くなるためには練習しかない』自分の弱さを素直に認める。そうすれば、あとは自分を追い込む努力をすればいい」と同氏が本書で述べているとおり、あくまで日々ひたすら努力を積み重ねてきた、泥臭い試行錯誤の結果に他ならない。
 「努力した時間は無駄にはならないし、その努力が活きるときは必ず来る。努力は裏切らない」、「人を好きになる素晴らしさ、自分の中にある大切な人を思う気持ちが、力を生むことを僕は知っている。自分の弱さから目をそらさず、闘えるのも感謝の気持ちがあるからだ」。自身が本当に日々心がけて実践していないと、こういう台詞は堂々と吐けない。本書を読み進めれば、長友選手が、おそらく松井秀喜選手(http://blogs.yahoo.co.jp/s061139/6215805.html
)と同じ類の、毎日努力を重ねることに卓越した「努力する天才」であることが分かる。また、テレビ報道などを観ていても分かるが、長友選手がどんなときでも謙虚に笑顔で周囲に接している様子は、(自身に足りない所だと自覚しているぶん、)本当に尊敬に値する。

 長友選手は、中学時代に「スタミナを鍛えろ」と恩師に進められて徹底的に走り込み、東福岡高校時代ではその長所を生かすためにフィジカルを徹底的に鍛えた。明大で「走力、スタミナ、1対1の強さ、身体能力の高さ」という長所を活かしてサイドバックにコンバートされ、これが転機となった。格上の相手に対しても、底知らずのスタミナと強靭なフィジカルで何度でも食らいつく。行く場所行く場所で高い評価を受け、FC東京、日本代表、チェゼーナ、そして遂にインテルへ。インテルの強化責任者は、同選手獲得にあたって、運動量やスピードに加えて「どんな問題にぶつかってもへこたれない強さ」を魅力として挙げたという。
 元日本代表の中田英寿選手や現日本代表のエース・本田圭佑選手にも共通するが、長時間のパフォーマンスに耐えうるスタミナと強靭なフィジカル、そして折れない精神力を持っていることは、足元の技術力の高さにも増して、世界レベルで活躍するうえで欠かせない前提条件と言っていい。怪我やスランプに悩まされながらも、ひたらす練習の効果を信じてスタミナやフィジカルをがむしゃらに鍛え続けた長友選手の努力は決して無駄ではなく、(結果的にセリエAサイドバックとしては)逆におそらく最短距離でもって、同選手を最高の舞台に押し上げた。同選手が掲げる「世界最高のサイドバック」の目標は、決して絵空事ではないと信じる。
  
(2011年、ポプラ社

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