Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

藤井 良弘 『EUの知識 第15版』

 上智大学教授の藤井氏によるEUについての基礎知識をコンパクトにまとめた文庫、2009年に発効したリスボン条約にかかるアップデートを含む最新版。
 
 最近仕事でEUの対外政策について調べ物をしているのだが、つい最近まで閣僚理事会と欧州委員会の区別も付いていなかった初心者の当方にとっては、基礎の基礎知識を総ざらいする上で本書は大変役立った。
 EU理念の根本にかかる概念としては、①対象事項が加盟国レベルでは対処できない、②加盟国では効果が上がりにくい、③共同体での対応措置が欠如していることが加盟国の利益を損なうといった事項についてのみEU権限の行使を認める「補完性の原則」、各加盟国がEUの決定に反対する一方でEUとして政策を推進しなければならない対立が起きる場合に当該加盟国に付与される「建設的棄権」の権利(共通外交安全保障政策(CFSP)で適用)、一方でEU統合をより積極的に推進するために欧州理事会全体での特定多数決で賛成を得られなくても、一部の加盟国が他の加盟国に先んじて統合を推進してEUを強化する「強化協力規定」(国際離婚のルール共通化などで適用)などが簡単に紹介されている。欧州統合プロセスにおいて国家主権との折り合いを付けるために導入されている様々な概念を理解することは、他地域に先んじてEUと加盟国が直面している苦悩と努力を理解する一助になる。
 閣僚理事会(意思決定機関)、欧州委員会(執行機関)、欧州議会、欧州司法裁判所の4権を中心とした膨大な関連機関を総ざらいした「Ⅱ EUの機関」も、手許に置く参考資料として大変便利。
 その他、金融・通貨をはじめとして、共通農業政策(CAP)や欧州近隣政策(ENP)に至るまで、各政策の現状がコンパクトにまとめられている。2008年のリーマン・ショックやその後のギリシャ危機を踏まえ、特に新金融監督体制や通貨(ユーロ)信用についての項が詳述されている。2010年に承認されたEUの新経済戦略「欧州2020」についても触れられているが、同戦略は①賢い成長(知識と技術革新)、②持続可能な成長(環境とエネルギー)、③包括的な成長(地域格差と雇用)の3本柱から成っており、「今回の危機は、目覚まし時計でもある。このままの経済運営を続けていると、EUは次第に停滞に陥り、新たな世界秩序の中で二流グループに成り下がってしまう」とのバローゾ委員長の危惧、すなわちここ数年でEUが直面した経済課題の大きさを如実に示している。

(日経文庫、2010年)


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