Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

村田 良平 『OECD(経済協力開発機構) 世界最大のシンクタンク』

 外務省の高官としてOECDに長く関わった村田氏が、OECDの生い立ちや業務についてコンパクトにまとめた新書。

 日本でも報道や政府統計などで頻繁に名前を目にするOECDだが、そのメカニズムを包括的に知っている方は案外少ないのではないか。「金持ちのサロン」などと揶揄されることもあるが、経済・社会の様々な国際ルールの設定・調整や、数百人規模の専門スタッフを生かした各種統計・分析の発行など、OECDが国際社会に果たしている影響は大きい。

 本書によれば、OECDの前身となったOEEC(欧州経済協力機構、1948~)の設立目的は、①米国援助の分配調整、②加盟国間貿易の自由化交渉、③貿易円滑化のための支払制度確立の3点であったという。その後、①米国を含めた貿易調整の必要性、②欧州経済統合の動き、③多数の開発途上国の出現、④日本の発展、といった変化に伴い、
より幅の広い政策協議を行う場として、1961年にOECDが発足した。発足当初は、経済、開発、貿易、すなわち経済政策委員会(EPC)、開発援助委員会(DAC)、貿易委員会(TC)の三大委員会の存在感が大きかったが、国際情勢の変化に応じて、環境や雇用、エネルギーなど、安全保障と狭義の政治問題を除くほぼ全ての経済・社会問題を取り扱う機関となっている。

 村田氏は、OECDの性格・特色として、①加盟国が少数であることからくる「クラブ的性格」、②多種多様な報告に象徴される「シンクタンク的性格」の2点を挙げている。OECDでは、発足以来、「紳士たる友人同士のクラブ」として、票決ではなく、コンセンサスによる議決方法が慣行として成立している。また、たとえば貿易分野で言うと、WTOが特定イシューのルール作りを担うのに対し、OECDはこうした「交渉」から離れた場として、より広い見地からの政策調整や自由な議論を行う役割をもつなど、イシューごとに他の国際機関との棲み分けを図っている。また、「公的輸出信用アレンジメント」など、地味ながらOECDでの決定事項が、そのまま各国の経済に大きく影響を及ぼすテーマもある。 

 (当方が関わりのある)開発援助についていえば、日本はOECDの場を最大限に活用してきたとは言えないように思われる。タイド借款は1980年代にOECDのルールによってほぼ息の根を止められたし、援助効果に関する2005年の「パリ宣言」では北欧諸国の既存方針がほぼそのまま反映された。放っておいても世界最大の援助国であった1990年代であればまだしも、援助量の上昇がほぼ全く見込めない現在では、OECDのような議論の場で日本の考えを主流のひとつとし、量は少ないながらも国際的に広く存在を認知させるような、(欧州であれば当たり前の)したたかな努力が求められる。

(2000年、中公新書

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