Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

世界銀行 『World Development Report 2008: Agriculture for Development』

 世界銀行が毎年発行している世界開発報告(World Development Report)の2008年版、テーマは「開発のための農業」。開発のうえで農業がもつポテンシャルをデータで示した上で、貿易・価格・補助金政策、農業の市場化、自作農の競争力強化、科学技術の適用、持続可能な農業環境、農業以外の農村経済とおよそ考えられるミクロからマクロまでの政策の方向性を示している。

 農業・農村開発に携わる開発援助関係者の間では、安定した食料供給の確保と農村における貧困の削減の両面の観点から、農業生産力の向上と農産物市場の整備、その核となる貧農に対する支援のあり方が長らく議論されてきた。世界銀行は、1982年の時点で既に農業・農村開発が果たす役割の大きさに着目し、「世界開発報告1982 農業と経済開発」で小農に対する支援を中心とした提言をまとめている。

 小農を中心に据えた農業開発の方向性は今回の報告でも変化しておらず、冒頭で、農業を経済のベースとするサブサハラ・アフリカ諸国のような国々では「Using agriculture as the basis for economic growth in the agriculture-based countries requires a productivity revolution in smallholder farming.」と小農の「生産性革命」が必要と延べ、第6章「Supporting smallholder competitiveness through institutional innovations」で土地政策、小農向けの金融サービス、リスク管理/保険、投入物市場の強化、生産者組織について過去の教訓とあるべき政策の方向性を詳述している。品種改良など科学技術の成果の適用、(とくに構造調整融資によって普及部門を含め農業開発に携わる公的部門をスカスカにしてしまった過去の教訓を踏まえ)普及サービスの強化についても別章で言及している。

 「革命」という言葉は、かつて南アジアや中米で花開いた「緑の革命」を連想させるが、これは豊富な水源と灌漑設備、肥料の多投を可能にする一定レベルの投入物市場といった前提があったからこそ成ったのであり、依然として低い収量に留まるより条件の厳しいサブサハラ・アフリカの国々では、こうした「革命」とも呼べる短時間での爆発的な生産性の改善は殆ど不可能で、上述したような個別政策を足し合わせ地道に忍耐と努力を積み重ねていく息の長い取り組みによってしか改善は期待できない(ショートカットはありえない)、と個人的には思っている。

 その観点からいくと、大方の政策の方向性や処方箋、その根拠や過去の経験は今回のような報告で既に出尽くしており、あとは各国政府や援助機関がどれだけ覚悟を決めて、予算の裏づけをもって政策を実行できるか、その一点にかかっていると思う。本報告の囲みでも紹介されている「包括的アフリカ農業開発プログラム(CADDP)(http://www.nepad-caadp.net/
)」は、参加国の予算配分に縛りをかけ(各国予算の10%を農業に分配することを求める)ある程度の強制力を備えたもので、同枠組みに基づくCAADP協約の締結、関連政策や投資計画の策定がガーナやタンザニア等で進んでおり、期待をもってその動きを見ている。

 なお、本報告は以下の世銀のURLから全文をダウンロードできる。つい数年前までは、大学や研究機関の図書館にでも行かない限り、普通の人がこうした報告書を閲覧することができなかったことを考えれば、つくづく便利な世の中になったことを実感する。
http://wdronline.worldbank.org/worldbank/a/c.html/world_development_report_2008/abstract/WB.978-0-8213-6807-7.abstract


(原著:The World Bank, 2007.
 邦訳:田村 勝省 訳「世界開発報告2008 開発のための農業」一灯舎)


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