Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

「NHKスペシャル」取材班 『アフリカ 資本主義最後のフロンティア』

 この2週間、やきもきしながら報道に接していました。東日本大震災で被災された全ての方に、心よりお見舞い申し上げます。
 
 さて本書は、2010年に放送されたNHKスペシャル「アフリカンドリーム(http://www.nhk.or.jp/special/onair/100404.html
)」(全3回)の取材班チームによる現地取材の記録。
 アフリカを取材した日本語の映像メディアが少ない中、グローバリズムの怒涛の流れに組み込まれつつあるアフリカ大陸の最新状況を伝えた同番組は出色である。当方も放映当時、画面に食い入るようにして視聴していたのを覚えている。映像を見るに越したことはないが、その補足資料として本書も一読の価値あり。本としては薄くて物足りない感があるが、それでもやはり最新の事実は凡百の分析に勝る。

 爆発的に普及率を伸ばすケニアの携帯電話市場と、席巻しつつある携帯電話を使った送金サービスの現場。国内で迫害され続けてきたツチ族ディアスポラが発展の起爆剤となりつつあるルワンダエチオピア全土に通信ネットワークを築きつつある中国最大の通信企業・ZTEと、過酷な環境での労働を厭わない高学歴中国人労働者のパワー。国の将来を見据えてダイヤモンド売買センター(DTC)を誘致し、国民の教育と発展に全力を傾けるボツワナ政府のしたたかな戦略。他方、独裁者の愚かな経済政策により破綻したジンバブエ経済、安価な労働力を提供する移民との対立が顕在化しつつある南アなど、ばら色一色ではないアフリカ経済の負の側面にもスポットライトが当てられる。

 しいていえば、これまで勉強しようと思ってなかなか手をつけられなかったボツワナのエピソードが個人的には印象に残った。DTC誘致に奔走した当時の資源エネルギー省高官の談話は、そのまま鵜呑みにするかどうかは別として、資源の呪いに悩まされる他国の経済を考える上で示唆に満ちている:「私たちは、アフリカの資源が他の地域に出て行く前に、アフリカの国によって流通していくという仕組みを作りたかったんです。その思いは、われわれの資源を取り戻そう、大地の力を取り戻そう、という言葉で説明できます」「資源が枯渇する前に、研磨産業を育てておきたいのです。ベルギーやインドにはダイヤモンドの鉱山はありませんが、研磨産業は育っています。だから、私たちにもできるはずなんです。研磨産業が育っていれば、ダイヤモンド原石は他の国から集めることも可能です」。それが必要とされる時代に、先見性と実行力に満ちた指導者層が世に生まれ出ているかどうか。辛酸に喘ぐ近隣国と比べたとき、過去数十年のボツワナの功績は、このあまりに単純な事実に帰すところが大きいように思える。

(2011年、新潮新書


https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/F/Foomin/20190829/20190829194141.jpg