Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

ピーター・F・ドラッカー 『プロフェッショナルの条件 いかに成果をあげ、成長するか』

 個人の自己啓発に関するドラッカーの論文や著作の妙訳を集めた自選集。同様のシリーズでマネジメントと社会についての著作を選んだものがある。巷の書店に自己啓発本は数あれど、そのほとんどはドラッカーが本書で述べたことの焼き直しと言っていい。社会における知的労働者の位置づけ、生産性を高める方策、キャリア形成の手法、時間管理のハウツーに至るまで。当方社会人5年目だが、この本から学ぶべきことは数多い。

 「深刻な問題は、この100年間における生産性の爆発的な向上をもたらし、先進国経済を生み出したものが仕事への知識の適用だったという事実を、ほとんどの者が認識していないところにある。」「成果を生み出すために、既存の知識をいかに有効に適用するかを知るための知識がマネジメントである。」「知識労働の生産性の向上を図る場合にまず問うべきは、『何が目的か。何を実現しようとしているか。なぜそれを行うか』である。」

 個人の生産性向上のために同氏が語る方策の数々は、至って単純明快。しかしながら実行には不断の努力が必要である:「成果をあげることは一つの習慣である。習慣的な能力の集積である。そして習慣的な能力は、常に習得に努めることが必要である。」「成果をあげるためには、貢献に焦点を合わせなければならない。手元の仕事から顔を上げ、目標に眼を向けねばならない。『組織の成果に影響を与える貢献は何か』を自らに問わなければならない」「成果をあげるための秘訣を一つだけ挙げるならば、それは集中である。成果をあげる人は、もっとも重要なことから始め、しかも、一度に一つのことしかしない。」

 本書の白眉は、中段の「私の人生を変えた7つの経験」で、同氏が自らの職業観・人生観を問い直すきっかけとなった逸話を披露する箇所。少年の頃の教師の言葉「何によって憶えられたいかね」を常に自問し続けたドラッカー氏。数々の名言もさることながら、日経の「私の履歴書http://blogs.yahoo.co.jp/s061139/32742286.html
)」で見られたように、現状に甘んずることなく常に新しい課題に取り組み続けた同氏の生き様には強い共感を感じる。ベートーヴェンアインシュタインのような生まれながらの才能に恵まれなくとも、常に研鑽を続けることで、成果を生み出し続ける知的労働者になることは可能だ、とドラッカー氏は言っている。常に流動し続ける現代世界に身を置く知的労働者の一人として、これだけ心強い言葉はない。

(邦訳:上田 惇生 訳、2000年 ダイヤモンド社
 原著:Peter F. Drucker "The Essential Dricler on Individuals." 2000)

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