Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

藻谷 浩介 『デフレの正体 経済は人口の波で動く』

 日本政策投資銀行で地域振興に長年携わってきた藻谷氏が、各地での講演内容をもとに書き下ろした新書。「内需が拡大しないのは不景気のせいだ」という俗説を廃し、経済に本当の意味で影響を与えるのは生産年齢人口(現役世代の数)であると主張する。

 日本の自治体の「99.9%」に仕事または私費で訪れたことがあるという藻谷氏の議論は、バイアスのかかった研究者や専門家の論を借りずに、自ら体験した事実と政府の公式統計のみを根拠に展開されており、説得力がある。同氏によれば、生産年齢人口(旺盛に消費する人口)の減少こそがが、商品の供給過剰と価格競争を生み、総売上を減少させてきた主犯である。政府統計によれば15歳~64歳の人口は1995年には8716万人に達したものの、以後は低減に転じ、2015年には7681万人となる見込み。現在の出生率をもとにすれば、同人口は2025年には7096万人、2050年には何と4930万人にまで落ち込む。仮に2050年時点の同人口の総消費を1995年並みの水準に維持しようとすれば、一人当たり消費を6割以上!増やさねばならない。

 この人口危機の対策について、藻谷氏は、①高齢富裕層から若者への所得移転(若年層の給与増加、生前贈与の促進、高齢者向けサービス・財の開発)、②(高齢人口と違って消費欲の高い)女性の就労・経営参加促進、③外国人観光客・短期定住客(外国人消費者)の受け入れ促進の3点を主張する。高齢富裕層の政治力が強い日本では①を声高に訴えることは難しいだろうが、②、③については反対勢力は比較的少なく、すぐにでも具体的な施策を講じることができそうである。②については、本書で女性の就労増加が出生率に負の影響をもたらさないというデータが紹介されており興味深い。

 他方、藻谷氏はインフレ誘導政策については否定的で、内需拡大につながる道筋がはっきりせず、「たとえば標準価格米の古古米でも値段が上がるというような事態」を演出することは非現実的で、高齢人口はインフレ下でもじっと金融資産を抱えているだけだろう、と述べる。ここは但し書きを付けて読まれるべきで、デフレ下の金融緩和とインフレ誘導政策の有効性は欧米では現実に立証されており、未知の少子高齢化社会に突入している日本の状況がいかに特殊だとしても、だからといって日本の金融当局が何の手も打たなくて良いという免罪符にはなり得ない。藻谷氏が掲げるミクロ視点での対策とあわせて、マクロの金融政策も必須だと思う(古古米の値段も上がって良し)。

 「補講」では、高齢者増加への対策として、破綻しつつある年金制度を生年別共済に切り替えるべし、との提言がなされている。最低保障措置が必要なのは言うまでもないが、そうした措置が不要な人にも必要以上の年金が支給されており全体としての制度破綻を招いているのが現状である。結果として不要となった積み立て資金を同世代の給付に充て後年世代の負担を軽くする、こうしたしたたかな知恵はもっと広範に議論されて良い。先日紹介した『日本はスウェーデンになるべきか』でも、同年代の死亡によって年金受給権が増加する同国のシステムが紹介されている。

(2010年、角川Oneテーマ21

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