Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

薮中 三十二 『国家の命運』

 2010年秋に刊行された前外務事務次官による本書、日本ではベストセラーになっている。民主党政権の外交失策ぶりを眼にして、外交において求められる知恵と戦術は何か、改めて外交のプロたる外交官の言葉が求められているのかもしれない。

 まだ顧問として外務省におられる関係上、経験されたことの全てを明らかにされているわけではないだろうが、それでも外務次官まで務められた方とあって、錚々たるトピックが並ぶ。日米構造協議、北朝鮮六者協議、周辺国との漁業交渉、TPPとEPA、サミット。1980年代後半の日米構造協議においては、日本は米国相手に「受身の姿勢」「言い訳の姿勢」「小出しの姿勢」に終始した、という。対照的なのが現代の中国で、人民元切り下げ問題等で象徴されるように「動じない」「言い訳をしない」「相手を攻撃する」と、論理だったオフェンスを展開する。「議論説得型」ではなく「以心伝心型」のコミュニケーションを得意とする日本人ゆえの悲しさかもしれないが、政府はグローバルスタンダードの「議論説得型」の思考回路で論理だったオフェンスを展開していく必要があるし、メディアも他国の動向にいちいち敏感に反応しすぎる癖を改めるべきである。普天間移設、北方領土北朝鮮拉致・核開発、喫緊の問題をぱっと思い浮かべただけでも、日本が受身にまわって打開策の見えない課題の何と多いことか。

 外交問題ではないが、「危機的デモグラフィー」として少子高齢化の重大性・対策について述べている箇所も興味深い。昨年秋のEconomist誌の日本特集は「Into the unknown」、近代史上未踏の領域に入る少子高齢化についてだった(http://www.economist.com/node/17492860
)。同氏が述べる対策は、「①ハイテク人材の大幅受け入れ、②介護などのサービス人材の大幅受け入れ、③人材受け入れに際して、日本語教育など必要な手当をする、④主要駅に公的な保育所を開設する、⑤市のセンターにデイケア介護施設を開設する」というもの。数年前のシラク大統領の言「(フランスでは超党派の議論のすえ)①子供を持つことによって新たな経済的負担が生じないようにする(税控除や子供手当)、②無料の保育所を完備する、③三年後に女性が職場復帰するときは、その三年間、ずっと勤務してたものとみなし、企業は受け入れなくてはいけない、この三原則を採用した」も紹介されている。個人的には、国内で抵抗の多そうな外国人労働者受け入れよりは、女性の出産・子育て・労働支援に全力を挙げ、少なくともフランス並みの対策をとるほうが現実的であり、早期のインパクトが期待できると思っている。

(2010年、新潮新書

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