Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

潮木 守一 『世界の大学危機 新しい大学像を求めて』

 桜美林大学のアドミニストレーション課程の通信課程用テキストとして執筆された、英、仏、独、米の大学の歴史を紹介する新書。これらの国々の大学制度と経緯がコンパクトにまとまっており、大学職員のみならず、欧米への留学・就労を考える人にとっても参考になる。

 古き良き大学の伝統を湛えたオックスブリッジを中心とする英、実験室・ゼミナールというイノベーションによって20世紀初頭の学問を牽引した独、グランゼコールと大学の二元体制を確立してきた仏、大学院の発明と富の集積によって現在も世界の頂点に君臨する米。いずれも個性に富んでいる。 

 各国に共通するのは、戦後の若年層増加と経済成長に伴い、研究の最先端を追う「卓越性の追及」とともに、ふくらんだ需要にこたえるための「大学の普及拡大」を目指す必要にも迫られ、数々の試行錯誤を繰り返してきた、という点である。たとえばフランスは、エリート養成機関としての役割をグランゼコールと呼ばれる専門機関に担わせ多数の教育予算を投じる一方、パリ大学をはじめ通常の大学の門戸を大きく広げ、結果として大学生数の急増と大学問題の政治化―パリでは入学金の値上げ等をめぐって学生と政府がしょっちゅう文字通り衝突している―を招いてきた。大学の環境は一般的に良いとはいえず、大学が集まっているパリ6区では、雑居ビルのようなキャンパスに多くの学生が集まっている光景がみられる。

 潮木氏が提唱するのは、多様な教育ニーズに応えるために、大学が「知識・技能のディズニーランド」となり、「成人のための学習センター」となること。しかしながら、いちど社会に出た人間にとって、残念ながら日本の大学はまだまだ魅力的な場所とは言いがたいし、そもそも欧米に伍しての「卓越性の追及」でさえも危ぶまれているのが現状である。言うは易し、行うは難し。

中公新書、2004年)

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