Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

高岡 望 『日本はスウェーデンになるべきか』

 福祉大国として知られる北欧の雄・スウェーデン駐在の高岡公使が、スウェーデン人とその社会・経済・外交について満遍なく解説した好著。同氏は2008年から同国に駐在されているそうだが、2年間で駐在先の国についてこれだけの論考をまとめられるかどうか、海外に駐在する企業・団体職員にとってはひとつのメルクマールだと思う。

 第2章「スウェーデンの本質」として、高岡氏は①自立した強い個人、②規則に基づく組織力、③透明性、④連帯の4点を挙げている。文字通り長く暗い冬に暮らすスウェーデン人は、日本人はもちろん、他の西欧諸国とも違う、独自の性質を身に着けてきた。逞しく勤勉であらなければ、気候の厳しい北欧では生死にかかわる。自活できることは自活したうえで、透明性を確保しつつ、政府を介した互恵精神を具現化する。手厚い福祉を国是とする点では日本と似ていなくもないが、何でもお上頼みの日本人とは少々趣が違う。

 世界一を誇る男女平等参画、時代によって基幹産業を冷徹に選択する産業政策、理念と現実のバランスを取る外交。日本が北欧の雄に学ぶべき点は数多いが、最大の関心事はやはり福祉、なかでも年金制度につきると思う。超党派でコンセンサスを形成した政策形成過程、(最低保障は確保したうえでの)所得比例分を中心とした勤労インセンティブ重視の制度設計、年金財政悪化時に自動的に適用される給付減額係数、保険料納付ごとに即年で支給される年金受給権と「オレンジ封筒」による通知、保険料と税の一元徴収。最低保障は担保しつつ(この点からも持続的な年金財政は不可欠)、働ける人には可能な限り働いてもらうインセンティブを確保し、財政危機の際には現行受給世代に負担を強いる。スウェーデンではこの年金改革を1984年から超党派で検討し、1998年に法制化した。その間、日本は問題を先送りにしてきたばかりか、技術的な問題を顕在化させて厚労省・年金保険庁の信頼を地に堕とし、改革の機運を逃した。このまま座して破綻を待つか、覚悟と勇気を持って議論形成に努めるか。政府のみならず、メディアと国民に課せられた責任も相当に重い。

(2011年、PHP新書

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