Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

山田 文比古 『フランスの外交力 ―自主独立外交の伝統と戦略』

 駐フランス公使(当時)の山田氏が、当時のアメリカ一極の世界において自主独立を貫いていたフランス外交について分析した新書。本書の執筆は2005年。政権の顔ぶれが変化した現在においても同国外交の基軸はほぼ変化しておらず、本書から学べることは多い。
 
 山田氏は、現代フランス外交の理念を築いたドゴールの言「フランスがもはや大国でない以上、フランスは、大国としての政策を持たなければ、もはや無二等しい存在に堕ちてしまう」を引きつつ、同国外交強化のために試みられている方策:「対米自主性を旨とする付かず離れずの同盟政策、ヨーロッパを中心とした足場固め、アフリカの勢力圏確保、文化と言葉を武器とする影響力の維持・拡大」「外交を最終的に担保するものとして、強力な軍事力」について各章で解説している。

 ドゴールの自主独立姿勢は、「ナチス・ドイツに国土を蹂躙され、米国や英国の支援によりようやく主権を回復したという苦い歴史に由来している」、という。戦後ドイツを欧州の枠組みの中に取り込み、欧州およびアフリカという土台を固めつつ、現代米国への一極集中に対しては「多極化」という旗を掲げて応戦する。不変・強力な外交理念と、それを支える具体的かつ不断の努力。フランスと日本の置かれた環境はあまりに違うものの、それを差し引いてもなお、外交先進国たるフランスから日本が学ぶべきことは数多い(武器輸出や旧宗主国での暗躍など、批判されるべき側面も多数あるのは確かだが)。日本の民主党政権の失策外交の数々を見るにつけ、在外邦人の一人としては忸怩たる思いが募る。

 個人的に気になっていたのがフランスと仏語圏アフリカとの関係だが、本書に一定の記述があり、勉強のスタート地点として大変参考になった。仏語圏アフリカ諸国にたびたび繰り返されたフランス軍の介入が、28のアフリカ諸国との間で締結されている防衛協定ないしは軍事協力・支援協定という法的枠組みに基づくものだとは、恥ずかしながらこれまで知らなかった。この枠組みに基づき、現地政府からの支援要請や、現地にいる仏人/外国人居留民の保護という人道上の目的が、軍事介入の根拠とされてきたという。サルコジ政権は国際社会と共同歩調をあわせ単独介入から一定の距離を置いているが、仏語圏アフリカ諸国にとっては、現在も政治・経済の両面においてフランスが最重要のパートナーであることに変わりはない。これからは、フランスから仏語圏アフリカ諸国の動向をつぶさにウォッチしていこうと思っている。

(2005年、集英社新書


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