Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

高野 秀行 『放っておいても明日は来る 就職しないで生きる9つの方法』

 『幻獣ムベンベを追え』等で知られるライター・高野氏が主宰した上智大学の講義「東南アジア文化論」の記録。なのだが、就職に悩む学生向けに「就活本」として今回新しく構成された。東南アジア文化について高野氏の知人がゲストとして講義するのだが、登場する方がフリーもしくは起業家として奔放に活躍されている方ばかり。さまざまな職を経てマレーシアのジャングルの生物資源ビジネスに行き着いた二村氏。ダイエット目的ではじめたキックボクシングが高じてタイでプロのムエタイ選手になった下関氏。周りからは破天荒に見えても、自らの信じた道を行く。特筆すべきは、どの方も人生を心底楽しまれている様子が行間から伝わってくること。

 自身も奔放すぎるくらい己の信じた道を歩まれてきた高野氏も、「ゲストを呼んでいて、僕もそうかって納得したのは、大半の人たちがひとつのことをずっと貫いてきたわけじゃないってこと。・・・必ずしも自分が思った方向に行くわけじゃない。そのときにどうするか?いろんな選択肢を持っている人たちが多かったですよね。自分は何をしたいのか?興味というのは常に二つ三つ持っている。そういうものを持っていると、ひとつがダメだと、こっちやろうかみたいに考えやすくなる」、と柔軟な考え方を薦めている。

 これは個人的にはとても示唆的で、自分はわりと一途に自分のやりたい仕事を追いかけてきたほうだが、それが故に仕事がうまくいかないときの心理的ダメージも大きかった。そういうときに常に別の選択肢を持っておく、転職しないにしても「まだ自分にはこちら(違う選択肢)がある」と思っていれば、だいぶ楽になれたのではないかと思う。普通に考えれば、人間誰しも長い人生の中で二つや三つは興味・関心を大いに抱く物事に出会うはずで、そうした「浮気性な」自分に素直に向き合うこと、ひとつの「あるべき自分」に拘泥せず肩肘張らないで生きていくことの大切さを、本書は教えてくれる。

 (2009年、本の雑誌社)


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