Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

平野 克己 『図説 アフリカ経済』

 アジア経済研究所の平野氏によるアフリカ経済の概説。現在進行形のアフリカ経済を把握するうえでは同氏の近著『アフリカ問題 開発と援助の世界史http://blogs.yahoo.co.jp/s061139/30512505.html
)』が詳しいが、豊富な図表を用いて1990年代までのアフリカ経済を論じた本書も併せて参照するとより理解が深まる。

 世銀の「バーグ報告(1981年)」は名前だけ知っていたが、その内容はあまり知らなかった。構造調整政策の理論的支柱として位置づけられ、その政策的帰結は大失敗に近かったが、アフリカ問題の構造と分析については注目すべき箇所も多い。とりわけ農業問題に注目し、「小農重視の農業政策への転換」を1981年の時点で既に提言していたことは興味深い。生産者価格の引き上げや為替レートの調整(国内産穀物への消費シフトを誘導)、農産物流通での競争原理導入の必要性についても触れられている。(資源輸出国は少々趣が異なるが)一国の経済成長に王道はなく、30年後の今、シエラレオネやガーナ、タンザニアなど多くのアフリカ諸国で、小農の生産性向上が主要政策課題として改めて取り上げられている。

 アフリカ農業の低い土地生産性については平野氏も第2章で詳述しており、問題解決の鍵は「開発行政」にある、としている。欧米でもアジアでも農業生産性の向上は生産者任せで進んだわけではなく、政府や学界が先導して改良種子や栽培技術の普及に努めてきた。奇しくも構造調整政策のせいでアフリカ各国の農業行政は人員・予算とも壊滅の危機に瀕したが、2000年代に入ってようやく、各国予算の10%以上を農業部門に振り向けるべきとする「包括的アフリカ農業開発プログラム(CAADP)」が合意に至るなど、反転に向けた試みが始まっている。中国との投資・貿易を梃子としたマクロ経済の改善と併せ、アフリカ人口の大半を占める農業従事者の生産性・所得向上こそが今後のアフリカ開発の要諦である。

 本書では、他にも製造業の概観、地域大国・南ア、対外関係や域内協力の概観についても触れられている。最終章では、ムベキ・南ア大統領(当時)の「アフリカン・ルネサンス(「アフリカ開発のための新しいパートナーシップ(NEPAD、2001年)」の源流)」を引きつつ、「開発政策に要求されるのは、いま手元にある資源を、どこに、どのように投下すれば経済成長が起動し始めるかという、集中と優先を決める戦略である」、としている。外部の援助機関においても、単に前年度踏襲主義によって支援分野と予算配分を決めるのではなく、そうした被援助国の動向をより敏感に汲み取って投入を行う努力が、もっとなされて然るべきであると思う。

日本評論社、2002年)

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