Foomin Paradise (読書ブログ)

経済や歴史、フィクションを中心に読んでいます。500冊までもう少し。

柳井 正 『成功は一日で捨て去れ』

 飛ぶ鳥を落とす勢いで海外にも出店攻勢をかけるファーストリテイリング社の会長兼社長・柳井氏による自身の経営哲学をまとめた本。

 日本のアパレル小売業の常識を覆したといっていい同社の創業者の言には学ぶべきところが多い。本書の目次を読むだけで、同士のメッセージが伝わってくる:「安定志向という病」「『成功』は捨て去れ」「世界を相手に戦うために」。もともとは社員や同業者に対する激励文だが、国内のみの視点に囚われて現状是認型の思考に陥りがちな日本の大多数の個人や企業に対する警鐘でもある。中国進出や野菜ビジネスなど、近年の同社の試みの中には失敗したものも多い。しかしそれでも前に進む、と柳井氏は言っている。消費者ニーズの飽くなき追求、激変する経済環境への対応、海外市場への度重なるチャレンジ。リスクを取って現状を打破する、その思考が求められているときは今ほどない。

 ファストファッションの旗手・H&Mの日本進出に対しても、「H&Mはファッションを売るが、ユニクロは付加価値の高いベーシックな服を売っている。ユニクロも、ファッション性のある服を売らなければ成らないが、そのシーズンしかきられない流行に特化した服というのではなく、ベーシックな部品としての服、他の服に合わせられる服をつくって売りたいと考えて実行してきた」、と冷静な態度で臨んでいる。こうした同氏の考え方には大いに共感するし、「ベーシックな部品としての服」は日本のみならず海外の消費者にとっても重要なニーズであり、こうした同社の姿勢は、短期的にぶれることはあっても長期的には必ず世界市場で信用を得られると思う(今住んでいるパリにもユ二クロが出店しており、折からの寒波も手伝って、「ヒートテック」商品が飛ぶように売れているらしい)。

(新潮社、2009年)

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